紅装のドリームスイーパー
Memories Level.1 ──いまから五年前、小学五年生
おれは走る。
ハア、ハア、ハア……。
息が切れた。肺が焦げつきそうだ。
イヌのように口を開いてあえぎ、四肢を動かす。
暗い夜道。緩やかな下りの傾斜がずっと続く。
夜道を照らすはずの懐中電灯は、彼女に預けたままだった。薄墨を流したような雲間からこぼれ落ちてくる冴えた月光だけが、足元を照らす唯一の光だ。
無心に足を動かす。
まえへ、まえへ、ひたすらまえへ。
彼女が背後で泣き叫んでいる。ひとりにしないでって懇願している。
おれは耳をふさぐ。彼女の声を意識からしめだした。
おれは走る。
ただ、逃げたかった。
彼女から──
作品名:紅装のドリームスイーパー 作家名:那由他