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ヒトサシユビの森 4.クスリユビ

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会見後、安田に会うことは叶わず、かざねは病院に戻った。
いぶきの死を素直に受け入れることができなかった。
それでも受け入れなければならない現実を呪った。
胸がかきむしられる思いを通りこして、いっそこの胸を切り裂いてみじめに動く心臓を握り潰したいと自分を責めた。
病院では誰とも口をきかなかった。
ただ病床に伏す雪乃にだけ、苦しい胸のうちを呟き懺悔した。
涙が枯れるほど泣いても、いぶきが心の中から離れない。
愛くるしい声で、”ママ”と微笑む。
泣き疲れた顔をかざねがベッドの端に埋めているところに、刑事たちがやってきた。
「溝端かざねさんですね。溝端いぶきちゃん遺体遺棄の疑いで逮捕します」
かざねは冷水を浴びせられた如く驚嘆した。まさか・・・。悪い冗談であってほしいと願った。
しかし刑事が示した逮捕状は本物に間違いなかった。
5年前と同じ。
やっぱり警察は頼りにならない、とかざねは臍を噛む思いだったが、冷静を装い刑事に言った。
「わかりました。母のおむつを取り替えてから行きますので、外で待っていてください」
かざねは、刑事たちが廊下に退くと、ドアが開かないように腰ひもでノブを固定した。
上着を脇に挟み、刑事たちに気づかれないよう、そっと病室の窓から中庭に飛びおりた。
いわれなき罪を着せられ汚名を晴らす機会も与えられないなら、逃げ隠れたほうがましだ。
過去の苦い経験から警察に不信感を募らせたかざねは、無謀にも逃亡の道を選んだ。
中庭を通って裏手の通用口から病院の外に出た。
左に行こうか右に進むか迷っている間に、両方の道に数人の警官が現れた。
戻るしかないと振り返ると、通用口には刑事たちが詰めていた。呆気にとられている間に、かざねは男たちに取り囲まれた。
年嵩の刑事が、腕時計の時刻を見ながら、かざねの両手に手錠をかけた。
溝端かざね逮捕のニュースは瞬く間に、石束町中に知れ渡った。
かざねが逃走を試みたことが世間の心象を悪くした。
警察としては、かざね逮捕後の「殺人罪」を含めた起訴に、より自信を深める結果となった。