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ヒトサシユビの森 4.クスリユビ

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いぶき捜索を気にしながらも、山本亮太は現場処理の仕事に追われた。
道の駅を核とした商業施設は、坂口土建が元請けとなって県内外の下請け業者に発注する形で建設されたものだが、資材・人件費の高騰もあって予定より基礎工事が遅れた。
開業に間に合わせようと、建物と外周の工事が急ピッチで行われたため、その煽りとして完成後の舗装道路や設備の一部に不具合が発生していた。
ここ数日、その不具合報告とクレームが施設関係者から、亮太のもとに多数寄せられているだ。
責任者である坂口大輔は、警察に協力して、子どもの捜索に出かけている。
さほど子ども好きではない坂口が、行方不明の子どもの捜索に協力するなんて、どういう風の吹き回しだ? と亮太は首をひねったが、それが猟友会に対する協力要請だと知って腑に落ちた。
亮太は、「会社のことは俺に任せて子どもの捜索に全力を尽くしてください」と言って坂口を送りだした。
その手前、「専務はいないのか、専務を出せ」という相手の要求に、容易く屈するわけにはいかなかった。
クレームのほとんどが坂口の判断を仰がなければ処理できないものばかりだったが、坂口が戻るまで相手を怒らせないよう時間を稼いだ。
そしてようやく山での捜索を終えて会社に戻ってきた坂口を見て、亮太は安堵した。
しかし当の坂口は会社のオフィスには帰らず、資材置き場2階の猟友会事務所に入っていった。
猟友会事務所は狩猟の免許を持つ者以外は立ち入り禁止で、亮太も坂口から入口にさえ近づくな、と強く言われていた。
しかし抱えきれないほど溜まったクレームに亮太は悲鳴をあげ、坂口に助けを求めるべく、猟友会事務所の外階段をのぼった。
ドアノブに触れる寸前、室内から怒声が聴こえて、亮太は立ち止まった。
「何やってんだ、バカヤロー!」
捜索協力から猟友会事務所に戻ってきた坂口と玉井を、蛭間が怒鳴りつけた。
玉井は済まなさそうに俯いた。坂口が言った。
「しょうがないだろ、こっちはふたりなんだ」
「警察は止められても、警察犬は止められなかったんだよ、健坊」
茂木は壁にかけてある薄型テレビのモニターを見つめた。地元放送局が遺体発見の第一報を伝えているところだった。
『・・・身長100センチ前後の子どもの白骨遺体である以外は、性別も死因や死亡時期も発表されておりません。ただ白骨遺体はほぼ全身揃っていますが、ただ指の骨が1本欠けているということで、明日引き続き捜索を続けるということです・・・』
「あんだけ見つからないようにしろって・・・」
蛭間はテレビから視線を坂口らに転じて、イライラを募らせた。
「悪かったよ。でもな、あのガキのせいなんだ」
「ガキを閉じこめた小屋に警察が近づかないよう、そっちに気を使ったんだよ」
蛭間はふと黙りこんだ。
たった今テレビが報じた”指の骨一本かけている”というワードと、玉井が言った”ガキを閉じこめた小屋”という言葉が蛭間の中で共鳴した。
突然アイデアが浮かび、蛭間の頭の中を高速で駆けめぐった。
その成功率をはじきだした蛭間の顔から怒りの表情が消えた。柔和な目になり、玉井の肩を軽く叩いた。
「サトシ、いい考えが浮かんだ。サトシは蛆虫100匹用意してくれ。茂木、かざねはまだタバコ吸ってるよな」
「うん、吸ってるの見たよ、この間」
「OK,じゃ次はよく切れるメスかナイフ」
「健ちゃん、何企んでるだよ?」
ドアの前から亮太はゆっくり後ずさりした。
立ち聞きするつもりはなかったが、耳に入ってしまった。”かざねの名前がなぜ?”と亮太は不思議に思った。
4人の断片的な話をつなぎ合わせて理解しようにも、整理がつかない。山中で見つかった白骨遺体が子どものものだったというニュースを、この時亮太はまだ知らなかった。
”警察犬は止められなかった”
”あれだけ見つからないように”
”あのガキのせいなんだ”
”ガキを閉じこめた小屋”
”かざねのタバコ”
”よく切れるメス”
ドアノブが動いた。亮太は階段下の物陰に隠れた。
細めに開いたドアの隙間から、坂口が顔を出して周囲をうかがった。
誰もいないことを確かめるとドアを閉め内鍵をかけた。亮太は階段の下で、得も言われぬ恐怖に震えた。