ヒトサシユビの森 4.クスリユビ
警察による稲荷山の捜索は、丸二日間にわたった。
5年前、かざねは自宅にいて捜索の様子を見られなかったが、今回は麓の鳥居が見える空地に停めたミニローバーの中で、吉報を待った。
二日間の捜索を終えた安田が、山から戻ってきた。
安田の険しい表情が、結果を物語っていた。
「明日、範囲を広げて捜索を再開します。県警本部からの応援もありますので、大丈夫。必ず無事保護します」
翌朝になって、警察は県警本部が派遣した警察犬を使った大々的な捜索を開始した。
子どもがひとり行方不明になった事案で、県警本部が出張って大がかりな捜索をすることは稀である。
石束署には5年前の苦い経験があった。
早々に容疑者を拘束し、着衣などの物的証拠もあったため、遺体の発見は時間の問題と目された。
そのため行方不明幼児の捜索に最大限の注力を怠った。結果、幼児の発見に至らず立件できないまま容疑者釈放となった。
あのときと同じ轍は踏めない。いしづか道の駅開業で世間的には注目されている。
いち早い子どもの発見は良いニュースとして全国に報じられるだろう。
そう言って、安田は上司や署長を説得した。
その甲斐もあって、県警に協力を依頼する運びとなった。
いぶき捜索には、坂口、玉井のふたりも警察からの協力要請により、猟友会会員として加わった。
難所の多い天狗岳方面へ行くことは4歳の子どもには無理だろう、と坂口らは捜索現場の警察官たちに説いた。
天狗岳と稲荷山を挟んで反対方向にある笹ヶ峰方面のほうが可能性が高いと、そちらの捜索を進言した。
地理に明るい猟友会メンバーの進言を鵜吞みにした警察は、主要な捜索隊を稲荷山から笹ヶ峰一帯に投入した。
しかし安田の捜索班だけは、警察犬の鼻をたよりに、天狗岳に通じる危険な吊り橋を渡った。
捜索四日目、いぶきが行方不明になってから五日目の午後、安田が率いた別動隊の警察犬が地中から人骨を発見したという情報が、かざねのもとにもたらされた。
だが人骨であること以外の詳細な情報は伝えられなかった。
大人か子どもか、男か女かもわからない。かざねはもやもやした気持ちのまま、安田からの続報を待った。
作品名:ヒトサシユビの森 4.クスリユビ 作家名:JAY-TA