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ヒトサシユビの森 4.クスリユビ

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「すまん、健市。ガキをとっ捕まえるのを優先した」
坂口は携帯電話を手に、四輪駆動車のドアにもたれながら、蛭間の返事を待った。
蛭間の抑揚のない声が返ってきた。
「子どもは捕まえたんだな」
「ああ、随分手間取ったが、捕まえた」
「それで時間がなくなって、死体を元の場所に埋め戻した。そういうことなんだな?」
「ああ、そうだ。まずいところを見られたんだ。ガキを放っておけないだろ」
「まあしょうがないな。で、その子どもは?」
「小屋に連れてった」
「小屋か・・・。小屋なら見つかる心配はない、だがまさか逃げ出したりしないだろうな」
「ああ大丈夫だ。ロッカーに閉じこめて、二重にカギをかけた」
蛭間はチっと舌打ちして、携帯電話を握りなおした。
「死体はその場所のまま移動できず、小屋には厄介がひとつ増えたってことか・・・」
坂口の耳に蛭間の溜息が聴こえた。
坂口は沈黙で詫びた後、善後策を蛭間に問うた。
「どうすりゃいい、この後?」
「どうするって、もうすぐ稲荷山の捜索が始まる。今はおとなしくしておくしかない。警察から応援要請がきたら、大輔とサトシで行ってくれ。見つけられないようにな。その間にどうすればいいか、考える」
蛭間は自宅の窓から、明け始めた稲荷山連山の景色を眺めた。
蛭間の手の中で携帯電話が、潰れるほど強く握られていた。