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ヒトサシユビの森 4.クスリユビ

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淡い希望がライトの消灯とともにかざねの胸の中で消えた。
山から下りてきた安田たちの傍らにいぶきはいない。捜索に加わった警官たちは、鳥居の前でひと息ついている。
安田は厳しい表情をしたまま、かざねに言った。
「捜索範囲を広げて、必ずいぶきくんを見つけ出します」



いぶきは山深い森の中にいた。何かに誘われるままにその場所にいた。
日が沈む何時間も前からそこにいて、飛びあがったり、幹を揺らしたりしては、思案顔で木の上の”彼”を見上げた。
”彼”とは、ウルトラマンである。
大人の背丈のあたりにソフトビニール製のウルトラマンのフィギュアが、ミズナラの樹の小枝と弦に挟まれて留まっていた。
片方の腕を天に突き出し、今にも飛びたちそうなポーズの人形だが、風雨にさらされ色彩が剥げかけ、逆に助けを求めているような貧相なウルトラマンだ。
それでもいぶきにとって、それは紛れもない正義のヒーローだった。
そのウルトラマンが今、樹木怪獣ミズナラに捕らわれていて、いぶきに助けを求めている。
しかし身長の低いいぶきにはまったく手が届かない。
落ちている枝木で煽ってもかすりもしなかった。
陽が沈み森から明るさが失われていくなか、残り時間は多くない。いぶきの心のカラータイマーが点滅を始めた。
いぶきはジャケットを脱ぎ捨て、助走をつけてミズナラの太い枝に飛びついた。