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ヒトサシユビの森 4.クスリユビ

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白を基調としたアイランドキッチンで、茂木麻美はトマトときゅうりを刻んで野菜サラダを作っていた。
傍らのコーヒーメーカーは褐色の雫を滴らせ、茂木家にリビングに香ばしい香りを漂わせた。
「ねえ、あなた。名前、考えてくれた?」
麻美は妊娠9か月のお腹をさすりながら言った。
茂木はダイニングチェアに掛け新聞を広げたまま、「うん、」と生返事をした。
「どれがいいか、言ってよ。私、迷っちゃっ・・・」
言葉が急に途切れたので、茂木は麻美のほうに目をやった。
すると麻美が、包丁を持った手を顔の前で振り回している。
「なんか、虫が入ってきたみたい」
「虫なんかいないよ」
茂木が新聞に視線を戻すと、小さな物体が目に入った。丸みのある綺麗な肌色の物体。よく見るとその先には爪のような光沢が。
茂木の鼻先数センチのところを、それは浮遊している。
新聞紙を揺らして振り払おうとしたが、消えない。
手で払ってもすり抜けて動かない。
その物体は茂木の目の前数センチの近さまで移動した。
そして眼球まであと数ミリに迫ったところで、茂木はチェアから立ち上がった。
「あなた、どうかしたの。顔が真っ青」
茂木の眼前から、その物体は消えた。しかし再び麻美が
「やだ、なんかこの虫、しつこい」
と言いながら、包丁を振り回し続ける。
茂木は両手で顔を覆い隠し呟いた。
「やめてくれぇ・・・」