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ヒトサシユビの森 4.クスリユビ

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石束署の取調室では、すでにかざねに対する尋問が始まっていた。
「病院でみんなの見てる前で、子どものほっぺた引っぱたいたそうだな。家でもやってるんだろ」
かつてと同じ取調官が、情け容赦のない質問をかざねに浴びせかけた。
小さな窓しかない狭い部屋。歪んだパイプ椅子。取調官の威圧的な態度。
かざねは5年前の体験がリプレイされているような錯覚に陥り、ただ沈黙を守った。
「なあ、溝端かざね。今回は証拠が揃ってるんだ。死体もある。だんまり決めこんでも起訴は確実だ」
3日耐えれば必ずここから出られる。それだけを信じて、取調官の執拗な質問責めを耐えた。
「ひとつ教えてくれ。指を切断した道具は何だ?」
取調官の質問にかざねが反応した。”切断”という表現が引っ掛かった。
指が道具を使って切断されたものという情報は、かざねが初めて耳にするものだった。
子どもの死体が数日間で白骨化するものだろうか。
かざねは疑問を感じていた。
先に発見された白骨とあとから発見された指が、同一人物のものという見解だったが真偽はどうなのか。もし発表に偽りがあって、あとから別の場所で見つかったという指の骨が別人のものだとしたら・・・。そしてそれにわずかに皮脂が残っていて、しかも誰かが道具を使って切断していたとなると・・・。
当初は小動物が掘り返したものだろうという、世間の噂を小耳にして納得していた。
しかし小動物ではなく人為的に切断されたものだとしたら、話が変わってくる。誰かがわざわざ指を一本だけ切断する目的は何なのか。先に発見された白骨遺体は発見時、指が1本欠けていた。欠けていることを利用して、その白骨遺体をいぶきの死体に見せかけようと細工したのではないか?もしそうなら・・・いぶきは指を一本失っているものの、まだ生きてる可能性がある。裏を返せば先に亡くなった子どもは、誰か?
かざねは瞬時に推理を働かせて、湧きあがる疑問を頭の中で整理した。取調官の質問を聞き流し、低い声で言った。
「安田刑事に会わせていただけませんか。大事な話が」
「ふざけるな! 何様のつもりだ!」
取調官は机を叩いて、かさねに怒鳴った。