ヒトサシユビの森 4.クスリユビ
夜が更け、酔いのまわった蛭間たちが猟友会事務所をあとにした。
坂口も四駆に乗り、自宅に帰っていった。無人になった猟友会事務所に亮太がマスターキーを使って忍びこんだ。亮太の目的は小屋の場所を探ることだった。
”小屋に閉じこめたガキ”
”よく切れるメス”
警察発表があるまでの亮太の想像は、”小屋の閉じこめられたガキ”イコールいぶきだった。しかもまだ生きているという期待感があった。
だが白骨死体がいぶきだと警察発表があった今、この子どもが誰なのか、安否を含め混乱してわからなくなった。
小屋の在りかを突きとめて、子どもの顔を見なければ答えが見つからない。
肝心の小屋が町の中にあるのか、村はずれにあるのか、それとも山の中にあるのか、それすら絞りこめない。
初めて足を踏み入れる猟友会事務所で、亮太は懐中電灯を片手に、慎重に手がかりを探した。
机の上、本立てのファイルや日誌、本棚の地図、引き出しの許可証類、取り出して開いては小屋につながる記述がないか、徹底的に調べた。
さんざん調べ尽くしたが、見つからない。
亮太は探し疲れて懐中電灯を机の上に投げだした。
懐中電灯の円形の光が壁を照らした。木目の縁取りの中から、坂口の顔が浮かびあがった。
心臓が口から飛び出すほど亮太は驚いたが、しばらく照らし続けるとそれが壁に掛けられた写真だとわかった。
ひげ面の坂口が獲物となった大きな猪を高く掲げ、満足そうに笑っていた。背景は木材で組まれた外壁。丸みを帯びた木材が積み重なっている。
屋根の庇の一部が写りこんでおり、屋根の向こう側は樹木に覆わている。
もしかして、これか? これが小屋。ログハウスのことか?
坂口が猟友会の会員であることは知っていた。以前、坂口から天狗岳に狩猟に出かけるという話を聞いたことはあったが、小屋の話は一度も聞いたことがなかった。
この写真の後ろに写っているものが例の小屋だとしたら、おそらく山中にある小屋だろう。
休憩をとるためのものか、狩猟の仕掛けや装具を置いておくためのものなのだろうか?
亮太はさらに山小屋の手がかりを求めてデスクの上や棚を探した。
しかし時間だけを費やして、結局何も見つけられなかった。
猟友会事務所にカギをかけ、亮太は薄曇りの夜空にかかる朧月を見上げて呟いた。
「あともうひと息だ。がんばれ、俺」
作品名:ヒトサシユビの森 4.クスリユビ 作家名:JAY-TA