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ヒトサシユビの森 3ナカユビ

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柿の木にとまったメジロが鈴の音のような軽やかな声で啼いている。
小鳥のさえずりが賑やかな田舎の農道を、いぶきはひとり悠然と歩いていた。
それは道の駅から十数キロ離れた稲荷山の麓に広がる田園地帯であった。
ジャケットを着た子どもがたったひとりで田んぼ道を歩いていることを、早朝から畑に出て農作業に励む老婦が不審に思い、作業の手を休めて声をかけた。
「早いね、朝から。坊や、どこ行くんだい?」
いぶきは答えなかった。老婦の声がいぶきの耳に届かなかったからだろうと、老婦は農道により近寄って先ほどより大きな声で話しかけた。
「坊や、どこの子だい?」
いぶきは老婦に気づいて少し歩を緩めて答えた。
「ウーターマン」
「うーたー・・・?」
「坊やのお母さんは、どこにいるのかな?」
「ウーターマン」
いぶきはそう言うと、先を急いだ。変な子だな、と老婦は思った。
しかし、何かトラブルに巻きこまれていたり、道に迷って困っている様子がいぶきから伝わってこなかった。
少なくとも老婦にはそう映ったので、遠ざかるいぶきの小さな背中を黙って見送った。
農道はその先で稲荷山とその西に位置する笹ヶ峰を縦貫する県道と交差している。
県道は、本数は少ないが公営バスも走っていることから、老婦は気に留めることなく農作業へと戻った。