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ヒトサシユビの森 3ナカユビ

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「道の駅は健市くんの発案だったらしいね。お義父さんから聞いたよ」
「発案だなんてお恥ずかしい。思いつきというやつで」
「ま、一杯」
蛭間に熱燗の徳利を傾けたのは、国土交通省の役人から転身した県副知事だった。
川魚料理が名物の料亭の座敷で、蛭間は吟醸酒を杯に受けた。
副知事の隣に県議会議長と蛭間の義父である町長が談笑しながら料理に舌鼓を打った。
さらにその隣に石束町議会の議長が苦虫をかみつぶしたような顔で酒を呷っていた。
末席には道の駅運営理事会の理事に名を連ねている玉井聡の顔もあった。
蛭間は各出席者に酌をして回り、最後に玉井の隣に腰を落ち着けた。
「錚々たる顔ぶれだね、健坊」
「気ぃ遣うわ、正直」
「これもそれもバッジのため、か?」
「石束の発展のため」
蛭間は玉井に酒を注いで、小声で尋ねた。
「ガキの素性わかったか?」
「ああ。かざねが石束を出た後、東京でこしらえた子どものようだ」
「だよな。あいつが考えすぎなんだよ」
「俺のとこにも茂木から電話があった」
「なんて?」  
玉井は眼鏡を外して口元を蛭間の耳に近づけた。
「生きてるんじゃないか、って」
「信じられないバカだな、医者のくせに」
「じゃあなんで俺たち4人を指さしたんだって訊くから、単なる偶然だろって答えてやったよ」
「偶然かな。そこは俺もひっかかるんだ」
「健坊まで、変なことを・・・」
蛭間はさらに声をひそめた。
「ガキはなんも知るはずねえしなぁ。知ってるとすれば・・・」
「健市くん、健市くん!」
町長が蛭間を呼びつけた。蛭間は徳利を携えて玉井の元を離れた。