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daima
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シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -

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俺はゆっくりと上体を起こし胡座をかいたオッサンの前で、同じように胡座をかいて座った。それにしても面と向くと余計に感じる、腰を下ろしたというのにこのデカさ。よくもまぁー勝てたもんだ。

「じゃ松浦、ええんやなぁー」

「あぁー。そういう約束や、しゃーない」

「だってよシマダイ。何でも言うてみぃや」


いつの間にか石川くんもシマダイ呼びになっている。


「なあーオッサン……じゃなかった、松浦くん」

「あぁー」

「あんた放課後、弟のマッツンにウラホソで万引きさせてるやろ?」

「ちょ、ちょっと待て、なんの話や。ワエはそんなことさしとらんぞ」

「え!? 嘘やん! 俺がこないだあんたにボコられた日も、マッツンめっちゃキョロキョロしながら店から出てきて、あんたに何か渡してたやんか」

「おう、それは確かに受け取ったわいや。ほんでも、何でそれが靖に万引きさせた事になるんだっちゃ」

「しらばっくれとんちゃうか? だったら、何でマッツン女子たちに隠れてコソコソしとったんだいや!」

「あ、あれはやな……、あれはそのお〜」


松浦のオッサンがその巨体に似合わず、顔を真っ赤にしながらモジモジし始めた。正直キモイ……、ある意味今日一番ダメージを食らったかもしれない。


「松浦、もうしゃーないやろ。この際ハッキリこいつらに説明したれや」


お、さすが石川くん、ナイスフォロー。

石川くんに促され、渋々オッサンは万引き騒動の真実を語り始めた。


「あの日、ワエが靖から受け取ったのはな、受け取ったのは……クソッ。ボムや」

「何! ボムーー!? ……って。それ何やツヨっさん」

「何だいやシマダイちゃん、ボムも知らんのか? ビー、オー、エム、ビー、BOMB!アイドル雑誌やんか。水着姿満載のな」

「へー、そうなんか。雑誌は少年ジャンプしか読まへんからなぁー俺。で?」

「で?じゃないやろ! ここまで説明してまだわからんか!」

「すまん、話がまったく読めん」

「シマダイちゃん、その手の話は苦手やからなぁー。結局このオッサンは、恥ずかしいて自分でよー買わんエッチな本を、弟に買わせてたっちゅうこっちゃろう」

「エッチな本とは何やエッチな本とは! 今月はおニャン子特集やぞ、見逃せれんのじゃ」


見逃せれんと力一杯に答えられても、そもそもそんなに見たかったなら、あんなにコソコソしないで堂々と自分で買えばいいんじゃないのか。


「そこんとこがシャイな中学生と、ガキんちょ小学生との男心の違いっちゅうもんや。ウラホソの婆さん、雑誌は袋に入れてくれらへんやろ? あんなむき出しな表紙女子にでも見られてみいや、ワエは恥ずかしいて二度と学校に行かれへんわいや」

「そ、そんなんマッツンだって恥ずかしいの一緒ちゃうんか! あんたはよう買わんから弟に買わすって無茶苦茶な理屈やん」

「アホか、靖のことなんてイチイチ考えてられるか。弟たるもん兄のために働くんは当たり前じゃ」

「うっわーー、最悪」

「あ、松浦、今のはワエも流石にちょっと引いたぞ」

「ケッ、どうとでも言ってくれ」


こうなるともうオッサンに聞いてもらうことなんて、一つしかない。


「松浦くん、あんたもうマッツンに本買わすのん禁止な」

「おう、そう来る思ったわ。しゃーない、何でも言うこと聞く言う約束やしな」

「あーーあ、アホらし。ほんなら用事も済んだしツヨっさんドマソン、帰らーか」

「お前、もしかしてこの為にわざわざ城中まで来たんか? あんなけボロボロにされといて、ほんま無茶苦茶なやっちゃな」

「あんたにだけは無茶苦茶言われたないわ! あぁー、それからマッツンな、マッツン、ここ最近アイツに付きまとっててさらに思ったんやけど、いっつもいっつもピリピリパリパリしてて周りと衝突しとる。口を開いたら誰かを攻撃するか嫌味を言うか……」


事実、ここ何日か今までにない程マッツンに注意を払っていた俺たちは、予想はしていたものの何度となくそういった場面に出くわし、いい加減辟易していた。


「ふん……そうやろな。まぁー最近は家でもほとんどワエとも喋らへんしな」

「うん、まるで静電気の塊が服着て歩いとるような奴やわ。たぶんアイツ自身それが普通になってて麻痺しとんやろな……。自分も痛いのに、気づかへんふりして……」

「ハッ! 情けないやっちゃ。兄貴である強靭なワエをもっと見習えっちゅうんじゃ」

「だから!……だから、アンタは強いんやろ? 静電気なんて平気なくらいその手は強いんだろうが! だったらもっと触れちゃれよ!」

「島井……」

「あんなしょうもない命令しとらんと、これからはもうちょっとマシな兄貴になったってよ。……それだけや、ほんじゃーな」


こんなクソガキにあれだけ言われりゃ、オッサンも何か変わるやろ。変わってくれなきゃ困る。最初はあんなに恐ろしく見えたはずの城中の校門を、今はもう不思議と何も感じなかった。


「シマダイ!!」


絆創膏を探そうとランドセルをゴソゴソしていた所で、石川くんに呼び止められた。


「ありがとうな。トモがワエ以外の奴とあんな風に楽しそうにしてんの、初めて見たわ」

「俺も、ドマソンに石川くんみたいな幼なじみがいたなんて思えへんくて、おまけに変な頼み事まで聞いてもらっちゃって……」

「ええってええって。そう言えばアイツは?」

「あぁー、何かウズウズするって先帰った。多分シャドウボクシングでもしたなったんちゃうかな……ハハ」

「アイツがここに入学してきた時、もうワエはおらへんのやなぁ。お前らが……、お前がこの城咲中をどんな風に変えていくのかこの目で見たかったわ」

「ハハ、それは買い被りすぎだで石川くん。俺はただのアハァーなしゃーたれ小僧だっちゃ」

「フッ、……そうか」

「ムヒヒ、そうです。ほんなら」




           *




「ん? なんだこれ!?」


あの騒動から数日後、ツヨっさんが下駄箱で見慣れぬ物を発見した。


「どないしたんツヨっさ……ん!! それって。下駄箱の中に手紙ってまさか」

『ラブレターちゃうんか!!』


最後がヒガヤンとハモッた。

下駄箱には蓋なんて付いていない。木質に馴染む茶色い便箋からは『下駄箱に馴染んで他の人に見つかりませんように……』という乙女心が伺えた。


「誰なん、誰からなん!」

「興奮しすぎだっちゃシマダイちゃん、まぁー待てって」


そこはツヨっさんだ。俺たちの前でデリカシーなく手紙の封を開けたりはしない。それは分かってる、分かってるけど。それならせめて名前だけでも知りたいのが男の性だ。


「ツヨっさん、中身まで見せてとは言わへんやん。誰からか知っとかな、恋愛相談にも乗れらへんっちゃ。なぁーヒガヤン」

「う、うん。そうだで、の、乗れらへんで……」

「別に誰も相談するなんて言ってへんがな。あ〜もう、しゃーれへんなぁー、名前だけだで」

「お、おう」


ツヨっさんは、仕方なさそうに手紙をチラ見しながら言った。


「山根恵子や」

「えーー!! ヤマケイか! ミサコからと違ったんか〜」