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daima
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シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -

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「あいつは、こんな手紙くれるたまとちゃうやろ……」

「まあ……な」


そう言ったツヨっさんの顔は何処か寂しそうに見えた。

しかし、ヤマケイとは驚いた。いつもツッパッて一人でいる事の多いヤマケイ。思い出しても、ポケットに手を突っ込んで窓の外を眺めている姿しか思い浮かばないくらいだ。

生まれながらに色素が薄いらしく、髪は艶やかな栗色で肌も白かった。切れ長の猫目は普通にしていても少し不機嫌に見える。そんなヤマケイが、ラブレターを出すなんて……。


「どないするんツヨっさん?」

「どないもこないも、まだ読んでもないんだで。ちゃんと読んでから、自分で考えてみるっちゃ」

「ふ〜ん……。ふう〜〜ん」


何かせっかくラブレター貰ったのに、余裕綽々って感じ……。悔しいけど、流石俺の相棒だわ。


「ぅあーー!!」

『いぃーー!?』


「なんだいやヒガヤン! ……ビックリさすなや」

「ホンマやで、急にでかい声出してどうしたんだいや」

「あ……、あ、あれ」

『うん?』


ヒガヤンの指さした方向は、俺の下駄箱だった。靴下を履かない派である俺の汚れた運動靴の上に、白い便箋らしき物が見えた。まさか……。


「シマダイちゃん!」

「おいや!」


自分の下駄箱目掛けて一目散に駆け出した俺は、その未知の物体が確かに手紙であることを確認した。そして、神々しいばかりのその白い便箋を両の手でしっかりと握り頭上へと掲げる。

この世に生まれ落ちて十一年、初めて触れるこのパリフワ感。神様ありがとう、これが……これがLOVEなレターと呼ばれる物ですかーーー!!

俺はこの記念すべき便箋を、集団下校で一年生と手を繋ぐ時以上の優しさで、丁寧に丁寧に開けてみた。俺はツヨっさんとは違う、家までなんて待っていられるか。


「ええか? よ、読むぞ」

『お、おう』


ツヨっさんとヒガヤンがゴキュリと喉を鳴らす。



           *
    


シマダイヘ

勝負しろ
放課後 
校庭の金次郎前で待つ
     
        松浦 靖


         

           *



「シマダイちゃん……、これって」

「ラ、ラブレターってゆ、言うより……」

「君たち、皆まで言うな。俺が一番分かっとる。『果たし状』……やな」

「プ、クク……、まぁーよーあることやわな。果たし状と……プヘッ。ラブレター見間違うって」

「そ、そうだっちゃ。ブフッ、ラブレターと言えば……フフ、は、果たしじょ」


ねぇ神様、気を遣われる方が辛い時って、人生にはあるんですね。


「遠慮はいらん。笑ってくれたまえ」

『ブーーーーーーー!ギャハハははははハハハ、ブァハハハハはははは』


〈ゴン!!〉


「笑いすぎやー!」

「痛ってー、ハハ……わりぃわりぃ。ほんでもこれ、マジでマッツんからだったら……」

「あぁー。最高の……ラブレターやん」




        *




校庭の金次郎とは、中庭にある二宮金次郎の石像のことだ。大きさが三メートルほどあり、ちょうど職員室から見ると死角になるちょっとした城咲小の人気スポットである。

手紙の通りに放課後金次郎の立つ場所まで行くと、本当に俺を待つマッツンの姿がそこにあった。傑作なことに、両手に自分の靴を嵌め込んで仁王立ちしている。

準備は万端というわけだ。


「待たせたなぁーマッツン!」

「こっちこそ兄貴が……、兄貴が世話んなったみたいやなぁ。シマダイに会ったら『今のワエの手のひらは最強に鋼鉄や』言うといてくれってよ。なんのこっちゃ?」


プハッ、鋼鉄やったらめっちゃ電気通してまうやんかオッサン。


「あぁ?」

「いや何でもない何でもない、こっちの話しだっちゃ。それに、マッツンの兄貴に会いに行ったのは俺の個人的な仕返しだでな。オメエが気にする事ちゃうわ」

「クソッ、訳わからん! 何だお前は、何なんだ。めんどくせえ……、いちいちお前はめんどくせえんだよ!!」

「ほんでこの果たし状か? そのお陰で俺はとんだ笑いもんにやなぁ……」

「もうええ! シマダイと喋っとったらこっちの調子が狂うんじゃ。とっとと勝負せぇや!!」

「クツシングでか?」

「おう! お前の土俵で戦ったる。クツシングで決闘じゃ!」


うん、今日のマッツンは静電気じゃない。ちゃんと熱いわ。


「よっしゃ、この勝負受けたる。でもその前に、俺からも一言だけ言わせてくれ」

「お、おう。なんだいや?」

「クツシングはなぁ」

「クツシングは?」

「屋内競技やぞ」


「……へ? ……え?」


「そりゃそうやろ? 誰がオメエみたいに裸足の足グッチャグッチャに汚して短い休み時間に外で競技するんや」

「垣谷……、そうなん?」

「あぁー、まぁーな」

「……。そうか、フッ。そんなことも知らんと、ワエはこんな目立つ格好してお前らを待っとったんか。かっこわるぅ、ハハハ……へへへ、アッハッハッハハハハ!」


お、何だマッツン。お前だってやっぱそんな風に笑えるんやん。


「ムヒヒ、マッツン。たまには格好悪いのもええもんやろ」

「へへへ どうやろな。シマダイみたいに、いっつもだったら勘弁やけどな」

「誰がいっつも格好わるいんだいや!!」


さすがのマッツンも気を削がれたのか、目を点にして固まっている。へへへ、ラブレターの恨みはこの辺にしといちゃるか。


「そうやなツヨっさん! 競技人口も一人増えたことやし、屋外バージョン解禁するか!」


俺はそう言いながら、靴下を投げ捨て運動靴を両の手に嵌めた。お? 素足で土を踏みしめるのも意外と悪くないんだな。

ファイティングポーズを取り、真っ直ぐにマッツンの目を見据える。アイツも、すぐに俺を見返す、痺れるくらい……真っ直ぐに。


「いくぞマッツン!」

「おっしゃ来いやーー!」


観客は二宮金次郎一人だけ。ゴング替わりのツヨっさんの声が、放課後の裏庭に響き渡った。

高い高い空にほんとバカみたいに大きく、響き渡ったんだ。


〈つづく〉