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シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -

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S#11 「マッツン」… 松浦 靖




〈キーンコ〜ン♪カーンコ〜ン♪ キーンコ〜ン♪カーンコ〜ン♪〉


「ツヨっさん、数字数字で頭がクラクラだっちゃ。いっちょあれやらぁーか!」

「よっしゃ、負けれへんでー今日は」


二時間目、算数終わりの休み時間。数字だらけで憔悴した頭をリフレッシュする為、俺はツヨっさんを“あれ”ことクツシングに誘った。

『クツシング』とは、俺が考案したボクシングとフェンシングを足して二で割ったようなニュースポーツである。

ルールは簡単、自分の上履きをボクシングのグローブのように両手に装着し靴底を相手に向けてファイティングポーズをとる。

「fight!」もしくはゴング替わりの「カーン」の合図で、相手の胸に付いている名札を靴底で先にタッチした方が勝ちだ。

激しいパンチの応酬となるが、相手との距離感と駆け引きが最も重要となる。ボクシングに似てはいるがパンチ力は全く関係ない。フットワークが勝敗を左右する俺みたいなチビにも優しい格闘技である。

まぁー俺が考えたんだから、その辺は当たり前か……。


「ムッヒッヒ……」


勝敗が判定しやすいように……と言うよりも、対戦相手に敗者の烙印を押すため、俺は黒板消しにたっぷり吸わせたチョークの粉を自分の上履きの底にペタペタと擦り付けた。


「シマダイちゃん、それマジかいやー」

「あんらーツヨっさん、戦う前から自分が汚される心配しとったらアカンでー」

「そ、そんな心配するかいや」

「ほんならゴングや。カーーン!」


ジャブジャブ、シュッシュ!

リーチのあるツヨっさんのパンチを小刻みに体を揺らしながらかわしていく。

〈パーーン!〉

時折二人のパンチが相撃ちになる音が廊下に響く。理解できず残っていた数字達が破裂音と同時に頭から吹っ飛んでいく……、これがまた最高に気持ちいい。

リズミカルにパンチを重ねながら格闘の世界に浸れそうになった所で、突然奴の声が現実に引き戻した。


「おめえら、相変わらず幼稚くせぇ遊びしとんな。恥ずかしないんか。まぁー、どうでもええけど」


声の主はやはりマッツンだった。


「どうでもよかったらほっとけや!」

「試合の邪魔やマッツン、早よ行けぇや」

「プッ、試合って。両手にくっさい靴はめて試合って……プフッ、きっしょ!」

「あぁー?」

「ほっとけってシマダイちゃん。混ぜて欲しかったら素直に言えーやマッツン」

「ケッ、誰がしたいかそんなしょーもないもん。アホくせーし行かぁーや」


はぁー、何でこうアイツはいちいち人をムカつかせる事ばかり言うのだろう。逆に面倒臭くないのか。


「なぁーツヨっさん」

「なに?」

「アイツの……、マッツンの笑った所って見たことあるか?」

「笑ったとこって、さっきも俺ら見て笑ってたやんアイツ」

「いや、そんなんじゃなぁーてな。そうやなぁ……お、ツヨっさん窓の外見てみ?」


俺はツヨっさんに、休み時間の生徒で溢れかえっている運動場を見るように言った。


「外って……、あれ? ナオチとヨー君が走っとるな」

「たぶんヨー君がナオチに挑戦したんやろ」

「ふぇー、そりゃまたヨー君無謀なことを」

「まぁー見とってみって」


二人は特に白線もないトラックの端っこに並んでスタートした。声までは聞こえないが、どちらかが合図したのだろう。


「頑張れヨー君、走れ、走れ!あー、やっぱナオチかぁー」

「ハハ、何かヨー君って応援しちゃうやんなぁー。見てみあの顔」

「お、めっちゃ笑ってるやん。ヨー君ってあんな顔して笑っとったっけぇ?」

「ハハ、知らんなツヨっさん。ヨー君めっちゃええ顔で笑うんだっちゃ。ほんでぇー、あ、あっちも見てみ。教室の端っこ」

「端っこって……、ワエの席やん」

「そうそう、ミサコがツヨっさんの缶ペンケース開けて……」

「わ!何やっとんだミサコ! やめれっちゃ!」


ツヨっさんは、明らかに自分の筆箱へいたずらしようとしていたミサコの元へと飛んでいった。


「気づいとったら早よ教えてやシマダイちゃん! ほらこれ見てみ? 筆箱に毛虫って」

「ぅわっ。ほんでもミヤマも入ってるやん。好きやろ? ミヤマ」


ミヤマとは、俺たちがこの時期懸命に捕獲に走り回るミヤマクワガタのことである。


「ま、まあな。ミヤマは好きやな……」

「ほら、ミサコこっち見てめっちゃ笑ってるやん。わ、顔真っ赤っかやでツヨっさん」

「嘘つけ! 赤ないわ。ちょっと熱いだけだっちゃ」

「ハハハ……、な?」

「うん?」

「マッツンのは、笑っとるんとちゃうやろ?」

「あ、あぁーその話か。あー!鼻の穴広げたその顔は、また何かしでかしちゃろー思っとるなシマダイちゃん」

「いや、別にそんなんじゃないんやけどな……」


何かを閃いた時、俺は若干鼻の穴が膨らむらしい。


「マッツンだけはやめとけってシマダイちゃん。こっちが損するだけやって。時間が勿体無いわ……、それに……」

「うん? それに……なんかあるんか?」

「アイツ中学生に目ぇ付けられて、万引きとかやらされとるって噂やで」

「ふーん、そっか……。そうなんや……ほーーん」

「しゃったーー! 話すんやなかった。あかん、あかんでシマダイちゃん。アイツだけはホンマ最悪やで。城中生まで出てきたらシャレにならへんしな」

「大丈夫やって。ただちょっと……」

「ただ……ちょっと?」


自分でも鼻の穴がプックリ広がったのがわかった。


「俺、マッツンと睨めっこしてくるわ。アイツ笑かしてくるわー!」

「ほらぁーもう! わかった、ちょっと待てって。俺も付き合ったるわー」


何やかんや言って、君も好きだなツヨっさん。


マッツンはスポーツが得意だ。でも、ナオチには敵わない。

マッツンは背が高い。でも、ツヨっさんには届かない。

マッツンは勉強ができる。でも、ヨー君にはいつも勝てない。

マッツンは喧嘩が強い。でも、俺には……。

ヒリヒリ……パチパチ。心に溜まった静電気が漏れ出して、マッツンの体を覆っていく。


俺たちはその日から、『マッツンと睨めっこ大作戦』を決行した。俺とツヨっさん、どちらかがマッツンを笑わせるまで、この作戦は終わらない。

レフィリーなんていらない。そんなの、めっちゃええ顔で笑ったら、誰にだって分かるだろ?



           *



「おいマッツン!」

「何だいや幼稚な凸凹コンビ」


氷のような態度のマッツンに対して、俺達は怯まず仕掛ける。


「今日はその挑発には乗らへんぞ……。喰らえっ、俺の最強の変顔!」


ドリフの志村ばりに下顎を突き出し、目を左右から指で押さえ1センチ角まで縮めた。


「……と見せかけてからの鼻からドングリーー!!」


《ポンッポン!》


「……」


軽やかかつ艶やかに鼻から飛び出した二発の弾丸も、マッツンの笑いのツボには到底命中しない。その顔は死んだ魚の目を彼方に通り越して、道端の石ッコロを見るかのように冷めていた。


「あかん!こ、交代やツヨっさん!」