シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -
「え!?」
「この祖父ちゃんを、俺達で倒そう!」
「お、お祖父ちゃんを倒すって!?」
「だって、全部が勝負っちゅう事は、祖父ちゃんとヨー君だって勝負やん。勝つっちゅうのは倒すって事やろ?」
「う、うん」
「ヨー君が祖父ちゃんに勝つにはどうすればいいのか……立派な社長さんになった時がそうなのか、まだ俺には全然分からへんけど、方法なんてこれからいくらでも考えたらええんとちゃう?」
「僕が、お祖父ちゃんに勝つ……か。ちょっといいかも」
「ヨ、ヨーちゃん……」
ヨー君の言葉に、お母さんが目を丸くしている。
「ハハハ!ハーハッハッハッハッハッハ!ハーハッハッハッハッハッハ……!!」
突然、太く大きな高笑いが玄関ホールに響き渡った。
「お祖父ちゃん?」
「ハッハッハ……面白い!この菱村 陽蔵をお前達が倒すか!そんな言葉、久かたぶりに聞いたわ!小僧っ子、お前名前は?」
「え?あ、島井……島井 大地……です」
「そうか、大地か……名は体を表すと言うが、お前にピッタリのいい名前だ。ご両親に感謝しなさい」
「はい……」
「陽一郎!」
「は、はい?」
「いい友達を持ったな。お前は父親に似て、どうも優しすぎていかん。この大地君から、負けん気を学びなさい」
「うん、ほんとそうだね……。ありがとう、お祖父ちゃん」
「よし、では帰るとするかな、今日は愉快な日じゃった……。あ!そうじゃ大地君、今度は陽一郎と菱村屋本館に来なさい」
「ほ、本館ですか?」
大きな声を出したのは、意外にもお母さんだった。それもその筈、菱村屋本館は一見さんお断り、VIP御用達の超高級旅館なのだ。そこに子供が遊び来た試しなど無いに等しかった。
「いいんじゃいいんじゃ、ワシが将棋で勝負の何たるかを教えてやるわ!」
お祖父ちゃんはそう言うと、ドカンとドアを閉めて帰って行った。
「あ、嵐みたいな人やなぁ〜」
「う、うん……でもありがとう。あんなお祖父ちゃん初めて見たし、何だかスッキリしたよ」
「よかったわ、一つくらいは外せたみたいやな」
「ん?何のこと?」
「イヤイヤ、こっちの話こっちの話……あ!ちょっと待って。ちゅうか祖父ちゃん、あの階段を一人で上がってきたんか?」
「そうなんだよ、タフすぎだよね……ハハ」
「敵わんな〜、……あ!!」
「今度は何? ……あ!!」
『ヒガヤン忘れてた!!』
二階に上がると、ヒガヤンはヨー君の部屋で一人爆睡していた。片手にはピラミッド時計……。
早くに亡くなったヒガヤンのお母さんが、目が不自由だった事を思い出した。心優しいヒガヤンの事だ、あの頃にこの喋る時計があれば……なんて思っているに違いない。
俺はもう少しだけ、ヨー君にヒガヤンを起こさないように頼んだ。
きっと今頃お母さんに『いい時計があったんだよ』って渡してる最中だと思うから……。
作品名:シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 - 作家名:daima