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シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -

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「ふた、二人に感心しすぎて……ぼ、僕何も出来ないから、この気持ちを……首の動きに乗せて……そ、そしたら途中から、頭がクラクラ……」


ヒガヤンの頭が、やじろべえのようにグワングワンと揺れている。


「ヒガヤン……気持ちエエくらいのアハァっぷりやな……」

「ブ、ブーーー!アハハ!アハハハハハ……」


ヨー君は大爆笑だ。こんな姿は学校で一度も見たことがなかった。少し驚いた……でも……嬉しかった。


〈コンコン〉


「ヨーちゃん入るわよ〜。今日はとても賑やかね、シフォンケーキ持ってきたから皆んなで食べて」

「ありがとう!じゃ、やる事やったし、おやつにしますか」

『待ってましたーーーー!!』


シフォンケーキという物を初めて食べたが、それはそれは美味しかった。ふわふわのスポンジをお皿の生クリームに潜らせて口に運ぶ。何て柔らかさ……舌が笑っている。


「ええなーヨー君、いっつもこんなん食べてるん?俺なんて昨日のおやつ、婆ちゃんに貰った干し芋と裏山で拾った椎の実だで」

「椎の実?」

「えー知らんのか〜椎の実……。こんなに山持ってるのに?今度学校持ってきちゃるわ!教室のストーブでちょっと焼いたらめっちゃ美味いで」


俺はそう言いながら、窓から見える森林庭園に目をやった。


「ハハ、ありがとう……ブーー!。ヒガヤンヒガヤン顔にクリーム付けすぎ!ほんまヒガヤンってオモロイなぁ〜」

「そうやろ?こいつめっちゃ楽しいのに、何で皆んな気づかへんのかなぁ〜」

「本当だね。僕も知らなかった……」

「ヨー君もだで?」

「え?僕?」

「うん。そんなに楽しそうに笑えるのに、学校ではいっつもどっか無理してへんか?」

「そ、そうかなぁ?自分では普通にしてるんだけど……」

「マッツンの事もそうだで。腹たったんなら言うたったらええのに……、アイツなんぼでも調子乗るで?今日もホンマはムカついてたんやろ?」

「まぁそれは……そうだね」


ヨー君が手に持ったフォークを皿に置き視線を落とした……。


「み、皆んなが皆んな、シマ、シマダイ君みたいには、出来ないよ……」

「ありがとう……ヒガヤン」


その時、一階の玄関ホールから太く大きな声が響いた。


「陽一郎!陽一郎はおるか!!」


ヨー君の顔が一瞬で凍りついた。さっきまで大爆笑していた人物と同じとはとても思えない、固く冷たく怯えさえ感じる複雑な表情だった。


「あ、あらお義父さん、いらっしゃいませ。ヨーちゃんなら今お友達と部屋で勉強を……」

「ふん、邪魔するぞ。」


小柄ながらも眼光鋭いその老人は、ドカドカ足音を響かせ階段下まで突き進んだ。


「陽一郎!降りて来なさい。話がある」

「あ……。お、お祖父ちゃんが来たみたい……ちょっと行ってくるね。適当にその辺探検して待ってて」

「大丈夫なんかヨー君?一緒に行こか?」

「ハハ、大丈夫大丈夫。さて、行くとするかな……」

「ヨ、ヨー君……」


仕方なく俺達は二階で待っている事にした。だが、明らかに普通じゃない様子のヨー君が心配だ。階段ホールの手すりに隠れ下の様子を伺う事にした。


「あ、お祖父ちゃんいらっしゃい。今日はなあに?」

「陽一郎お前、此間の運動会二番だったそうじゃないか!何で一番じゃないんだ。」

「え……でも、一位の上坂君って物凄く足が早いんだ。僕なんかじゃとても……」

「何だと?では何で負けるのが分かってて出たんじゃ。そんな事なら最初から出るなバカタレ!」

「で、でも……」

「そ、そうですお義父さん、頑張ったんだから二番だって充分立派じゃないですか。それも、たかだか子供の運動会で……」


お祖父ちゃんの剣幕にたまらずお母さんが割って入った。


「ふん、陽一郎はこの菱村の跡取りじゃぞ。どんな勝負でも勝っていかにゃぁならんのだ。負け癖が付いてからじゃ遅いわ!」

「ゴ、ゴメンなさいお祖父ちゃん……。次はきっと頑張るから……」

「頑張るのは誰だって頑張るわ。一番になれ!運動でも勉強でも、遊びでも。あらゆる事で勝っていくんじゃ」

「は、はい……。一番に……なります」

「うむ……来年は中学受験もある、気を引き締めなさい。菱村に関わる何百という人間がお前を見とるっちゅう事を自覚せぇ」


俺とヒガヤンは何も出来ずに唯々呆然としていた。いい家に住んでいるとか、美味しいおやつを食べているとか、沢山の物を買って貰えるとか……。

ヨー君の上辺だけを見て、正直羨ましいとさえ思っていた自分達を恥じた……。


「シ、シマダイ君……。ヨー君て、し、城中には行かないんだね……」

「うん……」

「せ、せっかく、仲良く……なれたのにね」

「うん……」

「シ、シマダイ君?」

「……ん?」

「あ、あれ見て?」

「何だいや……!? あれは……」


ヨー君の部屋の隣の大きな和室。引き戸の隙間から見えた「それ」に気付いた俺達は、吸い寄せられるようにその部屋に入った。

家紋の下、『陽一郎』と大きく金色に刺繍されたのぼり旗に挟まれ、豪華な鎧武者が座していた。恐らくヨー君の初節句にお祖父さんから贈られた物だろう。

ヨー君、君はその小さな胸の奥をこの鎧で固めてしまったのか。過度な期待や僻み妬みから浴びせられる言葉で心が傷つかない様に、菱村家の跡を継ぐ重圧に押し潰されてしまわないように……。

でも、その鎧は心を守ってくれる代わりに、触れようとする手も拒んでしまう。もしもその鎧が重くて苦しいのなら、一つずつでいい……ゆっくりでいい、外す手伝いを俺にさせてくれないか。


俺は意を決し和室を出て階段を降り始めた。


「ちょ、シ、シマダイ君どこ行くん!ぼ、僕行かへんで〜。あのお祖父さん、こ、怖すぎるしー、部屋に戻っとくで〜」


一階に降りた俺は、固まっているヨー君の隣に並んだ。


「ん?君は誰だ、あぁ 陽一郎の友達か……。 陽一郎も一緒に城咲中学に行かせてくれとでも、ワシに頼みにきたのか?」

「違います。中学の事は言いません」

「何故じゃ?中学でも陽一郎と一緒におりたいとは思わんのか?」

「それは思います。だけど、私立の中学に行くことがヨー君の希みで、それが夢を叶える近道になるんなら止める権利は俺にはあらへんから……ただ」

「ただ……何じゃ?」

「ヨー君は、戦ってます。毎日毎日、誰にも負けずに……精一杯戦ってます」

「戦う?」

「はい。さっきお祖父ちゃんが言ってたみたいに、日常の出来事全てが勝負事なんだとしたら……。めげず腐らず真っ直ぐに立って、重い重い……あの鎧を着て。俺には、とても真似できないです」

「鎧?あぁ、ワシが買ってやったあの鎧か?ふん、面白いことを言う小僧っ子やな……それで?」


俺はお祖父ちゃんから目線を外さず、ヨー君に語りかけた。


「なぁヨー君、俺は何でもかんでも一番にならなあかんとは思わへん。だけど、毎日が勝負みたいなもんっちゅうのは、ちょっと分かる気がする」

「うん……そうだね」

「倒そう」