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シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -

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小谷川に架かる最後の橋は菱村グランドホテル専用で、渡るとそのままエントランスに続いていた。


「着いたーーーー!」

「ご苦労様、この奥の中庭を抜けた所に家が建ってるんだ」


俺達がヨー君の後についていくと、従業員らしき人達が次々と声を掛けてくる。もちろん、ヨー君にだが……。


「お帰りなさい陽一郎君」

「お帰りヨーちゃん」

「お帰りなさいませ陽一郎さん」


着物を着た年配の女性から、ホテルマンらしい制服をきた若い男の人まで様々だ。


「うん、ただいま」

「ありがとう、ただいまー」


慣れた仕草で手を上げながら颯爽と歩いていくヨー君は、まるで王子様に見えて一緒にいる俺達まで偉くなった気分にさせてくれた。

ただ物珍しそうにキョロキョロしながら歩く俺とヒガヤンは、お付きの者AとBくらいにしか見えてなかったのかもしれない。


「お坊ちゃんとかって呼ばれてへんのだなぁー」

「そうだね、そういう呼ばれ方はあんまり好きじゃないから…あ、そこの階段を上がるんだよ」


ヨー君が指した方向には、五十段はあろうかという長い長い階段があった。


「ヨー君ヨー君、ヒガヤンの顔見てみい?」

「ブーーー!ヒガヤン、なんて顔しとるんだ!」

「お前階段が嫌すぎて、ドリフの長さんみたいな顔になってるやん!」

「ええ〜、そ、そんなことないっちゃ〜」


ヒガヤンの返事を合図に、俺とヨー君は笑いながら一斉に階段を駆け上がった。中程の踊り場で振り返ると、ヒガヤンがまだモタモタしている。


『ダメだこりゃ…』


顔を見合わせると自然に二人同じセリフがこぼれ、俺達はまたケタケタと笑った。そして、どちらからともなくヒガヤンを迎えに駆け降り、片方づつヒガヤンの手を引っ張り始めた。


「スッゲーーーー!!」


階段を上がり終えた俺達の前に、これまで見たこともないような洋風の邸宅が現れた。玄関アプローチには自然石が敷き詰められ、マホガニー調の背高いドアへと続く。

一階と二階の屋根はひと繋ぎに流れ、総タイル張りの外壁からは三角形の大きな窓が覗いていた。


「ただいまー!」

「お帰りなさいヨーちゃん、今日はいつもより遅かったわね」


俺は超細い目を作ってヒガヤンを見つめたが、特に気にする様子はない。


「あら?今日はお友達と一緒なの?」

「うん、ちょっと班ごとで相談する課題があってね、僕の部屋でやることにしたから。シマダイちゃんヒガヤン、入って入って」

「こんにちは!島井です」

「こ、こ、こ…」

「ヒガヤン、そんなに緊張しなくていいよ」

「いらっしゃい、島井君と東山君ね。いつもヨーちゃんがありがとう、ゆっくりしていってね」

「はい!おじゃましまーす!」

「お母さんシフォンケーキ焼いたから、後で持ってくわね!」


ヨー君のお母さんは、予想と違って……と言ったら失礼かもしれないが、『お金持ちの社長夫人』というワードから勝手に想像してしまいがちなイメージに反して、明るく朗らかでとても接しやすい人だった。

老舗旅館の女将というよりも都会的な印象を受けたのは、着ていた洋服がとても家着とは思えないきちんとしたワンピースだったせいかもしれない。

そして、自分の話し方の方言が皆んなより薄いのは、関東出身で一番沢山会話する母の影響なんだとヨー君は教えてくれた。

俺達は、すぐに二階にあるヨー君の部屋へと通された。板チョコみたいな重厚なドアを開けると、俺とヒガヤンは思わず声を漏らした。


『ひ、ひっろーー!』

「何帖あるんこの部屋?ヨー君一人で使っとるんやんなぁー」

「そうだで。たぶん十帖くらいじゃないかなぁ、詳しくは分かんないけど」


ちなみに俺の部屋はというと、居間の横にある四帖半の和室を妹と二人で使っていた。ヒガヤンに至っては、自宅が二間と水廻りだけだったので自分の部屋など持てるはずもなかった。


「ふぇーー!さっすが菱村家はちゃうわ〜。後で他の部屋も探検してええか?」

「えーー、それはちょっと……」

「頼むわぁー、は〜んちょお〜〜」

「う〜ん……まぁー、ちょっとだけならね」

「やったーー!!」


そうと決まれば早く課題をやっつけてしまおうと、俺達はヨー君の机に頭を寄せ合った。ふと、そこに見慣れない物を発見したのはヒガヤンだった。


「ヨ、ヨー君、こ、この三角のは、何なん?」


そこには、ピラミッド型の二十センチ程の物体があった。


「あーこれ?ちょっと押してみて」

「こ、こう?」


ヒガヤンがピラミッドのてっぺんをポンッと叩いた時、聞きなれない音声が流れた。


〈十五時四十六分です♪〉


『しゃべったーーーー!!』


それは時計だった。時刻表示はなく、時間が知りたい時に先端を押すと音声で時刻を教えてくれるという代物だった。しゃべる時計なんて、オカンが腕時計の時刻合わせで電電公社に電話する時しか聞いた事がない……おっと、去年N何とかに変わったんだっけか。

ヒガヤンはよほど気に入ったのか、何度も何度も押しては聞き、押しては聞きを繰り返してニコニコしている。そしてとうとう……


「ヨ、ヨー君、こ、これ僕にちょうだい?」

「えーー!?」


〈パシンッ!〉


「痛てっ!」


俺はヒガヤンのデコッパチを軽く小突いた。


「アホ!しょーもない事言うなヒガヤン。欲しかったらお年玉でも小遣いでも貯めて、自分で買えーや」

「う、うん……ホンマはもう、遅いんだけどね」

「ゴメンな〜ヒガヤン。そんなに気に入ったならあげたいとこなんだけど、僕もプレゼントで貰った物だからね〜」

「ふーん……お父さんに?」

「いや……。お、お祖父ちゃん……」


ここまで学校とは違い終始柔らかな表情で話していたヨー君が、『お祖父ちゃん』の名前を出した途端、みるみる硬い表情へと顔を曇らせた。


「ま、まぁーそんな事はいいから、続き続き!」

「ほんまだわ、探検する時間がなくなったら困るし早よやっちゃおーで」

「うん。や、やっちゃお」


ヨー君にとって祖父ちゃんが地雷なのを何処となく感じ取った俺達は、頭を切り替え残りの課題に集中して取り組むことにした。

ヨー君がアイデアを出し、俺が膨らまして、それいいね……とヨー君がノートに書き留める。ヒガヤンはウンウンと納得している。

ヨー君がさらにナイスなアイデアを出せば、俺がさらにさらにナイスなアイデアで膨らまし、これで完璧だね……とまたヨー君がノートに書き留める。ヒガヤンはこれでもかとブンブン首を縦にふっている。

ヨー君が超々……もういいか。とにもかくにも俺達は、学習発表会の計画を練り上げノートにまとめ終えた。


「できたーー!!」

「よっしゃー、この計画だったら他の班にも負けれへんわ!」

「お、おわった〜。つ、つ、疲れた〜」

「えーーーー!? ヒガヤン、ゴメンけどお前うなずいとっただけやん」