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daima
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シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -

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ドマソンの迫力満点過ぎる声で、城東コンビはさらに縮み上がってしまった。帰りたいのは、もうコイツらの方に違いない。


「まだこっちの話が終わってへん。ちょっと待っとれ」

「そ、そういう事やったら、ちょっと時間やってもええかな。なぁ?」

「う、うん。ちょっと待っといちゃろうか」

「フッ……」


ドマソンは少しニヤっとした後で、俺に話しかけた。


「シマダイ! 見ての通りや。ここはもう大丈夫だで、後は俺と垣谷に任せて お前は早よ入場門行けぇや」

「そうだでシマダイちゃん! 急がな短距離走、入場してまうで!」

「……うん、わかった。ありがとうな二人共、俺行くわ!!」

「急げ!!」

「おう!……あ、シロクマにペンギン! 俺は逃げるんちゃうぞ!もっと大事な勝負しに行くだけだでな!!」


俺はそう叫ぶと、入場門めがけて全力で走り出した。


「ちょ、待てや!誰がペンギンだいや!なぁ?」

「城東のシロクマ……か」

「めっちゃ気に入ってるやん!」

「さてお二人さん、待たせたなぁ。こっちも始めよか」

「いいぃぃぃぃぃぃーーー!?」


ここでドマソンが意外な質問をした。


「所でお前ら、胸に名札付いてへんな? 何でだいや」

「そ、そんな恥ずかしいもん、ハサミで切って捨てたわ!」

「オカンがせっかく作って縫い付けてくれたもんを、お前らは自分で取ったんか……。ほうか……わかった」

「え?わかった?」

「おぉー、そんな奴らはワエが今からギタギタにしちゃる。全力で潰しちゃるでな……。 来いコラーーーーー!!」

「ヒィィィーーーーーーーーーーー!!」


ドマソンが叫ぶと、城東のシロクマとペンギンは悲鳴をあげながら一目散に逃げ出してしまった。短距離走の代表に選ばれていないのが不思議なくらいの超絶なスピードだった。


「あ、ちょー待て!お前らー!!」

「垣谷やめとけ、追わんでええ。アイツらも これでちょっとは懲りたやろ」

「あ、うん…。だけど……プッ!」

「なんじゃい?」

「あんた、ホンマ変わったなぁー? 前のドマソンだったら、絶対アイツら逃がしたりせえへんかったやろ」

「あ?知るか、シバクぞ。イケメンは嫌いなんじゃ」

「おお怖わ……ほんでもホンマ助かったで、ありがとうな」

「……。ワエなぁ……垣谷」

「え?何?」

「ワエ……ちょっと前まで、自分のこと…透明人間やと思っとったんだ」

「透明人間?」

「おぉー。学校でも街でも、自分からワエに話しかけてくる奴なんて一人もおらんかった。登下校中の挨拶もあらへん。なんかの用事で話しとっても、誰も目も合わさへん…先生でさえなぁ」

「うん…」

「あーコイツらには、ワエが見えてへんのんやな。ワエの体は きっと透明なんや……てな。」

「あぁ…」

「ほしたら、ワエのことが見えるまで、どつき回したるしかないやろ?」

「……」

「そんな時にな、アイツが…シマダイが言ってきたんや。俺の事 ずっと見てるでって……ドマソンおはよーって、アホみたいに…デッカイ声でな」

「うん…シマダイちゃんらしいな…」

「そんな物好きでアハァな後輩ができたら、下手な背中は見せられへんやろ?なぁ…垣谷」

「ド、ドバゾーーン」

「うわッ、何だいや! 抱きつくなや、イケメンは嫌いだって言うとるだらぁがーーー!」


そんな二人のやり取りなど知るはずもなく、ようやく俺は入場門まで到着しようとしていた。


「コラー!何しとったんだ島井ー!行くぞー!」

「すんませーん!ちょっと便所行ってましたー!」


すんでのところで列に潜り込み、何とか入場には間に合った。


「なっがい便所やなぁ…逃げたんかと思ったで。その方がよかったんとちゃうか?」

「アハァ言うなや、誰が逃げるか」


言葉とは裏腹に、ホッとした表情で話しかけてきたのはナオチの方だった。

正々堂々と勝負をしようとしているナオチに、トイレ前での出来事を伝えるわけにはいかない。もちろん、さっきからズキズキ痛み始めているこの右足の事も…。


「よーい……」

(ダーーーン!!)


高学年の短距離走は、四年五年六年の順番で行われる。四年生代表がスタートして、いよいよ俺達の出番となった。

先ほどまでの余裕は何処へやら、その強張った表情からナオチの緊張がビークに達しているのが見て取れた。

もちろん俺も緊張していないわけではなかったが、シロクマにやられた足の痛みからか、かえって開き直った気持ちでスタートラインの前に立てていた。


「よーーい!」


ゴールを見据えようとしたその瞬間、俺の方を向いたナオチが何かを囁いた。


(ダーーーン!!)


圧倒的だった……。

大地を蹴り掴み、視界を切り裂き、躍動するその腕と脚からは風が巻き起こった。

ほんの一瞬で俺を……いや、俺達を置き去りにしてゴールテープを切ったナオチの姿に、誰もが見惚れていた。

次いで菱村ヨー君、城東の三人、ダントツ最下位の俺へと続いた。足の痛みは限界に近かったが、それを言い訳にはしたくなかった……。

だが、これでナオチは……、これで……ナオチは……。


「シマダイ!」

「お、おう。やっぱ速いな、全然かなわへんかったわ!」

「当たり前だ」

「そうやな、もうちょっと勝負になる思っとったんやけどなぁ」

「ちゃうわ!そんな足で無理しやがって!走れんで当たり前だって言ったんだ!」

「ナオチ お前…足のこと知っとったんか…」

「それだけちゃうわアホ。だからさっき走る前に言うたやろ。……降参だって」


ナオチは、あの時先に戻ったカコとミサコから全てを聞いていたのだ。


「あーアホらし。あんな顔して待っててくれるんやったら、俺も派手に転んだらよかったわ。見てみぃ?」


退場門には、心配そうな顔で俺を待つカコの姿があった。


「まぁー、俺じゃあアカンか。自分の出番そっちのけで、アイツのピンチに駆けつけられるような奴でないとな!」

「シマダイ君!!」

「カ、カコ…ちょ、やめれぇや!自分で歩けるっちゃ!」

「あかん!ひどなったらどうするん!」

「ちょーーー!! ツヨっさん、ドマソン! 笑っとらんと、早よ助けてくれーやーーーー!!」


その後、ナオチがカコに告白したのかどうか俺は知らない。

悔しいけど知っているのは、この日を境にナオチが更にモテモテになってしまったということ……だけである。