シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -
快晴の天気の中 ついに迎えた連合運動会当日、初めて見る小学校に興奮する俺達めがけて、ジャカルタの怒鳴り声が響いた。
両校による盛大な入場行進の後、両学校長の挨拶へと続いた。気絶しそうなくらい長かった城東小の校長挨拶に比べ、島井校長の挨拶は端的だった。
「君達の本分は学ぶ事です。しかしながら、それは机の上で勉強する事だけを指しているんじゃありません。まずは今日の運動会を精一杯楽しむこと。そして、その中で感じた事を絶対に一つ、持ち帰って下さい」
それだけ言うと、さっさと指揮台から降りてしまった。教頭は渋い顔をしていたが、俺達生徒は拍手喝采だった。どうだと言わんばかりに城東の生徒をチラ見した。
そしてプログラム一番のラジオ体操が終わると、それぞれ自分達の席に退場となった。ここからいよいよ競技がスタート、両校意地と意地とのぶつかり合いである。
プログラム二番、低学年による短距離走。その後、綱引き、玉入れへと続いた。
そして、エキシビジョン的な両校の先生による障害物競走で、大いに盛り上がりを見せて午前の部は終了となった。
「危なぁー、もうちょっとでジャカルタに見つかるとこだったちゃう?」
「ギリのチョンやなぁー。あれ?……そう言えばアイツらは?」
弁当を食べ終わった後の昼休憩、バックネットを制覇してきた俺とツヨっさんが席に戻ってみると、カコとミサコの姿が何処にもないことに気がついた。
何処に行ったのだろう……。今はトランペット鼓隊がドリル演奏しているが、それが終われば もう午後からの競技がが始まってしまうのだ。
そして午後のプログラム最初の競技こそ、俺とナオチの勝負の場。高学年の短距離走だった。
「アッコ!カコとミサコが何処行ったか知らんか?」
「さっき二人で便所行く言うとったで。そんなに心配だったら、ずっと手つないどったらええやん」
「うるせぇ!それよりアッコ、リレー頑張れよ」
「うん。あんたこそ百メートル頼んだで」
「おう!」
トイレならすぐに戻ってくるだろうとも思ったが、胸騒ぎがした俺はツヨっさんを誘って二人を探しに行く事にした。
案内板通りにトイレを探すと、すぐに二人は見つかった。入口前に立っているのは、間違いなくカコとミサコだ。
だが、その前には やたらとニヤついている城東の男子生徒が二人。
一人はツヨっさんと同じ位に長身で、その上横幅がかなりデカイ…色白で体操着を着た姿は、まるでシロクマだった。
その隣には小柄なトサカ頭、立ち姿といい、こちらはイワトビペンギンと言った所か。
「おめぇらーー!うちの女子に何しとんだいやーーー!!」
「シマダイ君!!」「ツヨっさん!!」
カコの顔が怯えている。俺が盾のようにシロクマの眼前に立つには、十分過ぎる理由だった。気づけば隣で、ツヨっさんが同じようにミサコの前にそびえ立っていた。
「なんじゃいお前ら! ワシらはこの可愛い子らぁーを便所まで案内したっただけだわいや!」
「そうじゃそうじゃ! 感謝せぇや!」
案の定シロクマとペンギンが怒声を浴びせてきた。
「うそ! トイレの場所わかるって言ったのに、アンタらぁーが勝手に着いてきたんやんか!変態!」
駆けつけた俺達に安心したのか、いつものミサコ節が響いた。
「とにかくお前ら、先に席に戻っとれぇや」
「え? だって……」
「ええから、早よ!」
「カコ!行こう!ウチらがおったら二人の邪魔だって!」
そう言いながら、渋るカコをミサコが引っ張って行った。こういう時に、ミサコの判断の早さは助かる。
「クソ!お前ら格好つけやがって!」
「あ!こいつらぁーまだ五年やん!」
体操着の胸に縫いつけてある名札を見て、ペンギンが叫んだ。そこにはクラスと名前が書いてある。そう言えば何故か城東の二人の胸には名前が付いていなかった。
「なんやとーー!六年相手にクソ生意気な奴らやなー!!」
名札が付いていなければ判断出来るはずもないのだが、この二人はどうやら六年生らしい。だが、ここで怯む訳にもいかない。
「あぁー?」
俺は思いっきり上を向いて シロクマの目を睨んだ、息がかかる程そらさずに睨み続けた。
だが、それがいけなかった。
(グチャ……)
「痛ってーー!!」
大きく膝を振り上げたシロクマに、右足のつま先を踏み抜かれてしまったのだ。
「シマダイちゃん!」
「あぁークッソ!シバクぞ!!」
俺はシロクマの胸に、思いっきり頭突きを喰らわしてやった。
「う!」
まさか反撃を喰らうと思っていなかったシロクマは、胸の辺りに手を添えたまま思わず仰け反り数歩下がった。
《ピンポンパンポーーン♪》
ここで突然、場内放送が俺達の耳に飛び込んで来た。
《短距離走の選手は、至急入場門まで集合して下さい》
「シマダイちゃん、これって…」
「うん…俺のことやな」
「ここはええから、行ってくれぇやシマダイちゃん!」
「さすがにこの状況で、ツヨっさん一人置いて行かれへんちゃ」
「ほんでも、走らへんかったらナオチがカコに……」
「あれ?やっぱ聞いとったなツヨっさん」
「言うてる場合か!」
「あーん?お前ひょっとして短距離走選ばれとるんか?……行かせるかいやボケーー!!」
シロクマに気づかれてしまった。こうなると、こちらの焦りが何もかも城東コンビに有利に働いてしまう。
《繰り返します。短距離走選手の島井大地君、至急入場門まで集合して下さい》
再びの呼び出し。今度はご丁寧なことに、フルネームのオマケ付きだ。
早く行かなければ、ナオチとの約束が果たせない。だが、そう簡単にこの場が収まるとは思えなかった……どうすれば。
その時だった。
「楽しそうやなーシマダイ! ワエも混ぜてくれぇや!」
「ドマソン!!」
声の主は、まさかまさかのドマソンだった。
「ド、ドマソーーン!?」
意外にも、俺達よりさらに大声で驚いたのは城東コンビの方だった。何やらヒソヒソ話を始めている。
(お、おい。城西のドマソンて言ったら、あのリンゴ飴事件のドマソンちゃうんか?)
(え!? 去年の温泉祭りで、城中のタカ君をボコボコにしたって噂の……)
(そうや、あのおっかないタカ先輩にガン飛ばされたのに、ビビる所か逆にシバいてリンゴ飴まで買わしたらしいで……)
(リンゴ飴ってめっちゃ高級やん!なんちゅう恐ろしい奴だっちゃー)
(どうしょう……そんな奴と揉めたないわいやぁー)
(ここは穏便に引き取ってもらった方がええんちゃうか?)
(あぁー。あくまでビビってへん「テイ」でな……)
どうやら密談は終わったようである。
「お、おい!何やお前……。関係ない奴は、すっこんどいてもらおうか」
「そうだっちゃ。だ、誰か知らんけど自分の場所に帰れや」
「気安う話しかけんな! 黙っとれーー!!」
「いいぃぃぃぃぃぃーーー!?」
作品名:シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 - 作家名:daima