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ヒトサシユビの森 2.コユビ

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「フェンスは明日7時に撤去予定です。それまでに業者さんは駐車場から車の移動をお願いします。おい、そこのインターロッキングまだ直らないのか。時間がないぞ」
”道の駅”プレオープンを明朝に控えて、坂口大輔は深夜帯にもかかわらず下請け業者に直接指示を飛ばしていた。
JR石束駅前から徒歩圏内の幹線道路沿いに、道の駅は建設された。
町内の農産物、畜産物を一か所に集積した庶民向けの市場だ。
ただ観光資源に乏しい石束では域外からの観光客や旅行者をそれほど多く見込めない。
そこで町は道の駅に併設する形で、大型ショッピングセンターを誘致した。
田園風景に突如現れた5階建ての白亜の商業施設と、城郭と武家屋敷をイメージした道の駅は、過疎の町に異空間を創造した。
石束の新しい町のシンボルになるだろうと、誰もが完成を待ち望んだ。
石束町の公益事業と商業施設建築を一手に受注したのが、地元の土木建設会社、坂口土建だった。
「おい、亮太。なんでそんなとこに敷板積んであるんだ。もう使わねえならとっととかたしとけって、言ったろ」
坂口大輔は坂口土建の専務で、社長の長男である。坂口土建は3年前の入札で受注を勝ちとった。その際、事業の規模を見据えて、大量に人手を雇い入れた。その中に当時無職だった山本亮太もいた。
「職人さん帰っちゃって、使うのか使わないのかわからなくて・・・」
「使わねえよ」
「はい、すぐ片付けます」
亮太は上背には恵まれているが非力だった。
とくに土木建築の技能があるわけでもなく、3年経ってもまだ使い走りに過ぎなかった。
開業目前の道の駅正面の広場では、式典の飾りつけや打ち合わせが夜を徹して行われた。
納品業者がトラックを停める場所をめぐってトラブルを起こすと、それを仲裁するのも亮太の役目だった。
専務の坂口は眠ることなく事あるごとに亮太に指示を出した。そのため、亮太は一晩中駆けずり回る羽目になった。