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ヒトサシユビの森 2.コユビ

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日付が変わる時刻だった。
茂木が帰宅するため私服に着替えて病院の廊下を歩いていると、通用口から身なりの整った母子連れが転がる勢いで入ってきた。
母親は幼子の手を引いたまま、夜間受付のカウンターに飛びついた。
「溝端雪乃の病室はどこですか? 母が倒れたと電話をもらいました」
「溝端、雪乃さんね」
宿直の男性職員がリストを繰り始めた。
茂木は職員の手元に喰いつく母親の前で立ち止まった。
見覚えのある横顔。いや記憶に鮮明に残っている顔。
母親は溝端かざねだった。
茂木はかざねがそこにいることより、かざねが連れている幼な子に戦慄した。
幼いいぶきは、かざねと手をつないでいる反対側の手を浮かせ、懸命に宙に伸ばした。手の先は人差し指だけを立て、突き刺すような形になっていた。
そしてその人差し指は、まっすぐ茂木の顔に向けられていたのだ。
茂木はいぶきの指弾の延長線上からそっと顔をずらしてみた。
しかしいぶきの人差し指は、互いに引き合う磁力のように茂木を捉え続けた。
いぶきの目は笑っているようにも泣いているようにも見えた。
「まさか・・・」
茂木は思わず声に出して呟いてしまった。
顔を背けて母子を視界から消すと、急ぎ足で病院をあとにした。