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ヒトサシユビの森 2.コユビ

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高速道路のインターチェンジを降りて石束の町へ向かうには、どうしても通らなければいけない道があった。
黄色点滅の信号機がある笹良川沿いの県道だ。
石束を離れいぶきが産まれてからは、さちやのことを思い出すことも少なくなった。
石束に帰らなければならないと知ったとき、さちやのことはあえて記憶の中に閉じこめておくつもりのかざねだったが、道路脇にポツンと立つ信号機の黄色点滅は、かざねに否応なく過去の出来事を思い起こさせた。
行方不明になって5年。さちやは生きてはいまい。
だがせめて遺体だけは見つかってほしい。
ふとさちやに思いを馳せたとき、かざねは信号機近くのガードレールの支柱に小さな花束が供えるように置かれているのに気づいた。かざねは花束の近くの路肩に車を停めた。
誰にために供えられた花だろうか、と気になったかざねだが、車から降りることはしなかった。
横にいるいぶきの右手をしっかり握りしめた。車の窓から花を眺め、笹良川の川面に幼いさちやの面影をぼんやりと追った。
いぶきはしつこくかざねの手を振り離そうとぐずった。
かざねがいぶきを振り返ると、いぶきは川のほうではなく、車の窓に顔をくっつけて山の頂を見上げていた。
チャイルドシートのベルトを押し広げ、宵闇の仄暗さに黄色の灯りがぼんやり滲む山肌に、いぶきは吸い寄せられるように喰らいついた。
かざねが車を発車させても、いぶきの視線が稲荷山から離れることはなかった。