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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 11話から15話

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 「20年前の子は、豊春のことでしょ。
 なんだい。もうろくしましたねぇ。贔屓の芸妓の名前まで
 忘れちまったのかい。
 薄化粧しただけの清子が際立って見えるなんて、あんたもいよいよ、
 年貢のおさめどきですねぇ」

 「スっと手を挙げる。
 ちょっとした舞の仕草を見せるだけで、ドキリとする。
 嘘じゃねぇ。切れ長の目がこっちを見ただけで、心がとろけそうだ。
 なんだよ・・・ただの俺の勘違いかよ。
 修行にも入っていないど素人の女の子か、あの子は。
 しかし。そうと知っても、やっぱりなんだか、
 どこか気になる女の子だな」

 「ふふふ。やっぱり節穴じゃなさそうだね。あんたのその目は」

 「あたりまえだ。春奴一門の粒ぞろいの6人の芸妓衆を、売り出す前の
 少女の頃から、つぶさに見つめてきたんだ。
 素材からいえばあの子が、6人の中でピカイチじゃないのか?」
 
 「あの子に、これといった取り柄はありません。
 舞は下手くそ。物覚えも、あきれるほど遅いものがある。
 強いて挙げるとすれば、はいと答える素直な性格が
 取り柄かしらねぇ・・・・ うっふっふ」

 「嘘つけ。お前さんとは40年来の付き合いになる。
 何かを感じたから、20年ぶりに新人を育てる気持ちになったんだろう?。
 何が見えたんだ。お前さんの目には」

 「芸者になりたいと、いきなり私のところへ飛び込んできました。
 いまどき珍しい子です。
 どうして芸者になりたいという子を、頭から否定したのでは可哀想です。
 もうひとり、最後に育ててもいいかなと考えただけです。
 別に他意は、ありません」

 「納得できねぇなぁ・・・・
 お前さん以上にあの6人が、喜んでいるのも妙に不思議だ。
 で。芸妓名はどうするんだ。それくらいはもう、考えてあるんだろう」
 
 「呼ばれた瞬間に、ニッコリ答える笑顔が素敵です。
 シャンと背筋を伸ばして座るたたずまいは、女が見ても痺れます。
 そんな雰囲気の中から、あの子たちも、何かを感じとっているようです。
 名前のほうはすでに決めてあります。
 ですが、訳がありましてまだ、公表することはできません」


 『冷てえなぁ、お前も』と初老の男が愚痴る。
『ふふふ。そう言うだろうと思っていました。ここだけですよ』
と春奴が近づいてくる。
『大きな声では言えません。ですが特別にお教えしましょう。あなただけに』
と小声でささやく。
『あの子の芸妓名はねぇ・・・』と男の耳に唇を寄せる。


 「・・・・なっ、なんだって。2代目春奴を襲名させるだって!。
 なっ、何を考えているんだいったい、お前は」


 男の驚いた目を見つめながら春奴が、
『お静かに。すべてこのことは、ゴ内密にお願いします』
と唇に人差し指を立てる。
ふふふと妖艶に、かつ楽しそうに、ニッコリと笑って見せる。

(12)へ、つづく