赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 11話から15話
男があらためて、200人あまりの行列を見回していく。
その眼は、獲物を探すタカの目だ。
荘厳な雰囲気を持つ平家大祭を、年に一度の楽しみにしている。
男がやがて小高い位置に陣取る。イベントの始まりを待つ。
巫女の出番は、最初にやって来る。
少女たちによって演じられる巫女の舞に清められてから、武者と美女達の
行列が出発のときの声をあげる。
平家に由来する湯殿山神社の境内を、後にする。
まちびとたちが扮した平清盛や平敦盛。
平重盛と姫君。おおくの武者と白拍子たちが、安徳天皇の一行を擁護しながら、
200名余りの武者行列をつくる。
温泉街を横切り「平家の里」までの登りの道、2kmあまりをねり歩く。
「ウチの赤襟で、清子といいます。
ウチ。20年ぶりに芸子を育てることに、いたしました」
清子に見とれている男の肩を、ポンと春奴が叩く。
「えっ・・・。
妙に雰囲気の有る子やなぁと思っていたら、やっぱり春奴一門の新人さんか。
それにしても、色っぽいなぁ、あの子の立振る舞いは」
初老の男の顔をのぞきこみながら、ふたたび春奴が笑いかける。
「何言うてんの、あんた。
あんなの、ただ巫女の衣装が似合っているだけやないの。
相当、ボケてきましたなぁ、あんたも。
あの子はまだ、半玉でも何でもあらしません。
2月ほど前、湯西川へやって来ましたが、いまはまだ行儀見習いの
修業だけです。
本格的なお稽古は、なにひとつ、始まっておりません。
昼間、猫と遊んでいるだけです。
いまのところは、ただ普通のどこにでもいる娘さんです」
「嘘つけ。馬鹿なことを言うんじゃねぇ。俺の目は、節穴じゃねえ。
動くたびに、目を惹きつける何かが有る。
しかし、偶然とはいえ驚いたねぇ・・・・
まるで、20年前に巫女役をつとめた、6番目の弟子だった女の子の
再来かと思ったぜ。
あの雰囲気は、ただ者じゃねぇ」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 11話から15話 作家名:落合順平