2020.5.13「和音占い師Sayokoのライブ」にて
「あはは、カニさんみたいで面白い二人ね」
リナが2本目のタバコに火をつけて笑った。
「何がワイフだよな、自分の娘をスリム美人だってさ。それにローレックスの時計なんか見せつけちゃってね。ヒゲおやじ!でもセカンドDVDの狂気のライブのシーンって観たいよな、何かマジ、やばそうだよな」僕は呟いた。
ライブ会場をSayokoのスレンダー美人スタッフが2人ライブのアンケートを取って回っていた。背が高く、スタイルが良いので白いコンサバブラウス姿が目立っていた。
「すいません、こんばんは。ライブは初めてですか?アンケートをお願いします」
僕に寄ってきてアンケート用紙を渡した。バラの匂いのような口臭がした。
「あ、はい。いいですよ、あのー、すいません。Sayokoさんっていくつ位ですか?」
僕は真っ赤になって美人のスタッフに聞いた。
「また聞いてる!そんなに歳が気になるのどうして?もー、デレデレして」
リナが僕の左の肩をつねった。
「イタタ、ごめん。一般的日本人代表の素朴な疑問だよ」
「ふふっ、よく聞かれます。そうですわね、Sayoko先生は十代ではない事は確かですよ」
美人のスタッフの、優しそうでいて頭の良さそうな切れ長の瞳と、何とも言えない知的な微笑みと、バラの匂いが僕を刺激した。
「あー、ごめんなさい。そうですよね」
僕は彼女に見とれそうになったが、隣のリナの視線が痛く、アンケート用紙に視線を逃がした。
アンケートは誰の紹介で来たか?今日のライブの感想や今、最近何かに悩んでいますか?
などの質問だった。
ライブの紹介者はリナで。
ライブの感想は曲による歌唱の変化、テクニックの使い方などに関心した事を細かく指摘した。自分がヴォイストレーナーをしている事も書いた。
現在の悩みは自分の結婚についてと、簡単に書いて受付に提出した。
後にこのアンケートの内容が理由でSayokoと再開する事となる。
勿論、その時はそんな事に気づいていない。
「何がふふっ、そうですわねよ。もう、キースケは美人だとすぐベラベラ話をしたがるんだから。それに先生が十代のはずないじゃない、バカにしているんじゃない?」
リナの顔がインコに変身しかけた。
「Oh!リナ、Im Sorry、I Love you、Sorry」
僕はアメリカドラマの外人の真似をして、リナを抱きしめて耳元で言った。
「もうー、そうやって調子いいんだからー」
少しにやっとしてリナが言った。メンソールタバコのフレイバーの匂いがした。
すると後ろのテーブルの4人の2カップルの話が僕らの耳に入ってきた。
「あ、そう言えば私、
今月の和音占いは通常の未来の方が、現在から未来の音が♭5だったんだよね。
変えた未来も♭5だよ」
「えー、それって超悪くない?」
「でしょう!だからなるべく新しい事に目を向けながらも、ちょっと用注意なんだよね」
「和音占いって、音楽理論を使っているから独自の説得力があるよな」
「それはSayokoさんの話術だよ。俺は他の占いとあまり変わらない気がするよ、所詮、占いは占いだからね」
「て言うか、本当に毎回Sayokoさんのライブって雨なんだよね、なんで?」
「何か噂では、Sayoko先生が降らせているらしいよ」
「まさかー、ばかじゃない!偶然でしょう」
「でも、ライブ活動2年半位で回数だと20回以上でしょ、全部雨なんだって。ありえないでしょう。
それって凄くねー?」
「あ、でもね一回だけ中止になった事があったらしいよ。体調不良って事でチケットが払い戻されたんだって。実はその日はパンパンに晴れだったって」
「へえー、ふーん、うーん」
4人は煮え切らない半信半疑な相槌を打っていた。
僕とリナはそんな話を聞いていて、彼らと同じタイミングで頷いた。
「もうそろそろ僕らも行こうか?」
「うんお腹空いたしね、ラーメンでも食べて帰ろう!美味しいとんこつあるよ」
リナが言った、僕らはラーメン好きのカップルだ。
原宿駅近くのAFURIと言う人気のあるラーメン屋でとんこつラーメンを食べた。
本降りの雨の中、店の前で10分位待ち、日本交通の黒いタクシーに乗った。
2DKのマンションの我が家に着き、二人は風呂に入った。
テレビでは東京オリンピックのスケジュールやアスリート情報が流れていた。
「そろそろ寝ようか」
リナがタバコの火を消しながら言った。時計は24時を回りかけている。
「そうだね、何か、アメかガムかある?お口がさびしいな」
僕はタバコを吸わないのでそうゆう時がある。
「何にもないよ。あ、仕事でもらったのど飴があったか」
リナがバックから出した。どこのコンビニでも売ってあるのど飴だった。
「おう、頂戴、頂戴。何だ、あれ、ラストワンじゃん」
「本当だ!じゃー、あげない。Sayoko先生のCD聴いちゃおう」
リナは最後の飴玉を自分の口に素早く投げ入れ、CDをかけた。
「あー、ちょっと殺生な」僕が言った瞬間にCDが流れた。
「最後のキャラメル」と言う曲が流れた。凄く良い音だった。
「うーんやっぱり、この曲いいな。ほら!」
リナはそう言って、口の中の飴玉を舌の先に乗せて、顔を僕に近づけた。
「んー、ありがとう。そうそう、この歌の様に幸せを分かち合おうぞ!」
そう言ってリナのとんがった舌をそのまま頬張った。
何度も飴玉は僕とリナの口を行き来して、小さくなっていった。
これぞ、セキセイインコの口移しみたいだ。
「バリッ」途中でリナは右の奥歯に飴玉をはさみ、僕に見えるようにそれを砕き
バリバリ音を立てて飲み込んだ。
うす暗い部屋の光はリナの顔をゴリラのメスの顔みたいに見せた。
「あっ」僕が声を出すと、
「キースケのもちょうだい」
リナはそう言って僕の上に乗ってきた。
僕らは何故かいつもより激しく抱き、お互いを求め合った。
その空間ではSayokoの歌が流れている。
僕は長い時間リナを強く抱きしめ、リナの中で思い切り深く果てた。
その時、
Sayokoがステージを去って行く時に目が合った、寂しく振り向いた彼女の顔が、
そして瞳が、僕の心の中で鮮明に蘇った。
完
ライブ曲のセットアップ
(インストロメンタル)
雨音ピアノ
窓の外
白い旋律
Doubtダウト
ブライト
(歌)
最後のキャラメル
希望のうた
セピアカラーのシネマ
木漏れ日の中で
恋愛論
Fineフィーネ
2つの未来
心の中のサイレンス
Rescue Me RescueYou
Over Sleep!
2020、6月のインディーズ雑誌のSayokoインタビュー記事にて
記者「お疲れ様です、今日はよろしくお願いします。前月のライブ観させていただきました。」
Sayoko「ありがとうございます、よろしくお願いします」
記「カッコ良いライブでした、満員でしたよ。人気がありますね?」
S「いえいえ、表参道クアトロはキャパ100名なんですよ。
皆さん和音占いのお客さんで、お友達を呼んで来てくれるんです」
記「1日2回のステージでトータル約200人ですよ。
凄いですね、そもそもライブを始めたきっかけは何ですか?」
作品名:2020.5.13「和音占い師Sayokoのライブ」にて 作家名:関口成一