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2020.5.13「和音占い師Sayokoのライブ」にて

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「Sayoko先生!スゴーイ」リナも手をバンバン叩き、思わず叫んでいた。
拍手が鳴りやまねうちに、彼女は首を横に振り、
「Rescue Me!RescueYou!」と次の曲のタイトルを叫び、わざと客席の左と右を交互に見た。

歌の9曲目Rescue Me RescueYou

歌詞

A 暗い顔 悲しい顔 疲れた顔
最近あなたは毎日毎日 そんな顔
沈むタイタニックに乗り込んで
もし愛のプリズナーになっていたら

B  RescueYou  RescueYou
私があなたを救うから
笑顔に変えてあげる
絶対に 何があっても

A 暗い事 悲しい事 疲れた時
もちろん私にだって襲いかかる
マンネリ化した毎日に
こなしきれない寂寞感

B  Rescue Me  RescueMe
あなたが私を救うなら
笑顔に変えて下さい
約束ね 何があっても

B  RescueYou  RescueYou
私があなたを救うから
笑顔に変えてあげる
絶対に 何があっても
約束ね 何があっても

ノリの良いハードなナンバーで、何と彼女は更に地声を張り上げるSuperflyのようなロック系の歌い方をしていた。
正面の顔のモニターテレビの表情は助けを求める真剣な眼差しだ。
間奏ではのけぞり気味にピアノを弾くと、モニター画面では顎と鼻の穴が見えたアングルにもなった。
首を縦に激しく振り時々目を見開いて睨み、怖い位の雰囲気だった。
それはまるでロックの狂気にも似ていて圧巻だ。
ロック好きの僕にとっては、デープパープルのジョンロードを彷彿させた。
「あ、このリフは3度の音抜きのギターのパワーコードのリフに近い!」
そんな事を思い、僕もつい熱くなって拳を上げたり手拍子をしたり興奮してしまった。

1~2曲目のSayokoとは別人がそこにいて演奏をしているようだった。
これが彼女の変身、変体、チェンジの演出なのか。
僕の女子大生の声楽発表のコンサートみたいになる危惧はすっかり吹っ飛んでしまった。
「何て事だ!」まさに僕が逃げ出しそうな、合唱発表会からレスキューされた。

ところが、彼女も熱く歌い、サビの「レスキューミー、レスキューユー!」の所で、
声が見事にひっくり返ってしまい、モニタ一の顔が一瞬、赤くなったが動じずに更に強く歌い続けた。
歌詞も私があなたを絶対に助けるから、あなたも私を助けてね、約束よ。
そんな駆け引きの内容だった。
アイドルや普通の女の子の発想ならば、お願い私を守って助けてね。と歌う所だ。
男に媚びず、彼女なりの男女平等主義の意味と勝手に受け取った。
僕はそのような考え方は好きで、そんな粋でイナセな歌詞がとても気に入った。

曲が終わり場内は盛り上がり、イケイケ状態になった。
「レスキューミー、レスキューユー!」は2回もソロが入り、意外と長い曲だった。
僕も手や腕が痛くなったが、すっかりストレス解消になり、来てよかったと思った。

曲が終わり。拍手と歓声の中、
「ありがとう最後の曲です、また会いましょう。傘を忘れないでね」
と汗だくで、息を荒立てながら彼女は言った。
「えー!」数人の男性が甲高い声を出した。
「やだー!」女の子たちも言ったかと思うと同時に曲が始まった。

歌の10曲目「Over Sleep!!」

歌詞

A 朝靄の中 橋の上 あなたが微笑みながら歩いてくる
素敵なその瞳 浮かれた気持ち
どうかこのまま時間よ、止まれ!

B 友達が集まって 二人の熱いキッス
幸せのウエディングベル 目覚まし時計に変わり始める

C Uh  Over Sleep 走れ!すぐに
並木道がみんなで歌い続ける中
Uh  Over Sleep 急げ!すぐに
夜になるまで 続きはおあずけよ

A 怖い夢を見て 目覚めると
あなたが心配そうに見つめている
優しいその瞳 救われた気持ち
どうかこのまま時間よ、止まれ!

B ずっとずっとそばにいるよと あなたの温もり
耳元の囁きが 目覚まし時計に変わり始める

C Uh  Over Sleep 走れ!すぐに
並木道がみんなで歌い続ける中
Uh  Over Sleep 急げ!すぐに
夜になるまで 続きはおあずけよ

C Uh  Over Sleep 走れ!すぐに
並木道がみんなで歌い続ける中
Uh  Over Sleep 急げ!すぐに
夜になるまで 続きはおあずけよ

「何てポップな可愛い曲なんだろう!絶対にこれは売れる!!」
曲が終わると僕は痛感した。
基本的な8ビートリズムの明るいポップロックだった。
少女が憧れの恋人と愛し合い結婚するが、それは夢で、目覚まし時計に叩き起こされ、
遅刻に焦るストーリー歌詞で、とてもお茶目な面白い曲だ。
黒子の目覚まし時計の音をトライアングルで、16音符で叩き捲るのがユニークで
クレッシェンド演出が本当に目覚まし時計のベルのようだった。
メインリフとサビの所でパンパン!と手拍子を入れる所が決まっているようで、
観客に合わせて、僕もリナもそれに合わせてやってみた。
パンパンでWake Up!と叫んでいるお客さんが何人かいた。
子供のお遊戯みたいで少し恥ずかしかったがやってみると、パンパンがとても絶妙なタイミングで楽しかった。
Sayokoは最後まで楽しく笑って歌う事はなく、この曲も主人公の真剣な焦りの想いを
演じていた。また、それが逆に雰囲気に合っていた。
例えば、ベテランの漫才師は笑わずに真剣にネタをやり、観客は爆笑する。

曲が終わり、笑いと拍手喝采の中で、黒子は深々と頭を何度も下げ、スっと黒幕に消えた。

Sayokoも微笑みながらピアノに黒い布のようなモノを置き、ゆっくり閉じて、
蓋の部分を両手で触り、ピアノに頭を下げた。
そしてスっと立ち、ステージの中央に歩き深々と客にゆっくりお辞儀をした。
顔を上げると汗で額に長い髪がくっついていた。
その顔は入場の時とは打って変わって、真っ白な歯をむき出しにして、本当に笑っている無邪気な子供の様な感じだった。
そして場内をゆっくりとS字に見渡した。
その笑顔は、可愛く見せようとか、おざなりの作り笑いなどの性質ではなく、
まるで浅田真央が本番のスケートで完璧な演技を達成した時のような清々しい顔だった。
もう一度軽く会釈をしてゆっくり下手に向かって去って行った。

最後にもう一度、彼女は振り向いた時に僕と目が合った。
しかしその時には、
もう無邪気な笑顔は消えていて、大人の女性の切ない哀愁の顔に僕には見えた。

決めたとおりアンコールは無く、すぐに会場は明るくなりBGMが流れた。
余韻にひたり、誰も帰る者はいなかった。
60分の演奏なので、後はバータイムになるのかな?僕は思った。
ざわざわと客が喋りだした。人の音になった。
「どうだった?」リナは汗をハンカチで拭いながら言って、僕の額の汗を拭いてくれた。
「本当にぶっ飛んだよ、いいね!Sayokoさんて色んな歌い方が出来るんだね」
僕は笑った。
「でしょう?」リナは万遍のドヤ顔で言った。
「ここまだ居ていいの?」僕はリナに聞いた。
「演奏が短いから後はバータイムになるみたい、喉渇いちゃった。何か飲まない?」