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2020.5.13「和音占い師Sayokoのライブ」にて

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ほとんど下を向いているか目をつむって演奏をしているので、「何の為に写しているのか、あまり意味がないな?」と思った。
4曲目が終わり、また拍手が起こり今度は僕もつられて手を叩いていた。
思った以上の演奏力と歌唱のバリエーションだ。

歌が終わり、彼女は氷のような?笑みを浮かべながら、首を傾け左にうつむき、5秒位の間で、また次の曲を静かに弾きはじめた。
次もインストルメンタルの「白い旋律」と言う曲だ。
弾きながら再び語りを始めた。

語りMC

あなたの周りでも最近、「プラス思考になれ」とか
「もっとポジティブになれ」とか言う人っていませんか?

私はぜんぜん気にしていませんし、そうなるのが、ちっとも良いとも思ってないです。
なぜなら、簡単に考えて、元々小さい頃からマイナス思考やネガティブだった子が、
大人になって他人から逆になれ!と言われてもそれは無理な話です。
毎日無理な事をやろうすると、やっぱり凄くストレスやプレッシャーになりますよね。

それならマイナス思考もネガティブも自分で受け入れて、そしてちょっと開き直って
ゼロの思考や平常心を目指せばいいと思いますし、その方が気は楽ですよ。
私もそのタイプなので、あなたにも取り入れて欲しいな。
そうすると意外に今日と明日がだんだん楽しくなっていきますよ。

リナはこの語りに涙目で頷いていた。
僕もそうだよな、と素直に思い、リナの涙に心を打たれた。女の涙には弱い。
僕の職場ではそれ以外に、「モチベーションを上げろ、周りの空気を読め!」
というフレーズが日常茶飯事に使われている。
それをすべてクリアーするのが立派な大人の社会人なのか?
多分、そうなのだろう。僕は自問自答していた。

5曲目、6曲目はそんなモヤモヤした気持ちに追い討ちをかける様な暗黒のマイナーな曲のイントロが流れた。
ちょうど5曲目が始まる頃に、会社からメールがあった。
今日の仕事の報告不備の伝達内容だった。
「あ!しまった報告するのを忘れていた」
すぐに返信メールを打っていると、5曲目のイントロが鳴りSayokoの
ロングトーンが聴こえてきた。
クレッシェンドをした強い地声に見事なビブラートが掛かっていた。
僕はそのビブラートの声に気を取られてメールを打つ手が止まってしまった。
僕は「うわ、何だ何だ!急にビブラートを使った、今までと全然歌い方が違うじゃないか」
仕事柄、そのヴォーカルに本当に驚き耳がダンボになった。

そしてその曲は「恋愛論」と「Fineフィーネ」と言う曲だった。

歌の5曲目「恋愛論」

歌詞

A 抱きしめていたい
あなたの全てをそのままに
ケースに入れて大切に
しまっておきたい
壊さないように

A 落とさないで欲しい
私の愛のプレゼント
バックに入れて いつでもどこでも
しまっていて欲しい
あなただけの為のモノだから

A 残しておきたい あなたの涙をこぼさずに
冷凍庫でダイヤのように
輝きを保つよ
私の為のモノだから

B だけど無くした時 
私もあなたも おもちゃ箱から
落ちてしまった兵隊人形のように
何かが 何かが変わるよ
ハンデが消えて自由に旅立つジプシーたちよ

C 恋愛論でも読んでみようかな?
駅前の本屋やネットにたくさん並んでいるけど
買えるかな?検索できるかな?
お店じゃ人目が気になるけど
恋愛論でも読んでみようかな?
恋愛論でも読んでみようかな?

B 落とした時 あなたも私も
クロスパンチをくらったボクサーみたい
夢心地 起きられない動けない
レフリーのカウントは9を指している

C 恋愛論でも読んでみようかな?
駅前の本屋やネットにたくさん並んでいるけど
買えるかな?検索できるかな?
お店じゃ人目が気になるけど
恋愛論でも読んでみようかな?
恋愛論でも読んでみようかな?

なんと僕は、このR&Bのミディアムの歌で、このライブで一番衝撃を受けた。
3回のAメロは1回目を囁いて、2回目は普通に、3回目は強く歌った。
後半のB、Cメロは転調をして、テンポが少し早くなり、突っ込みラップのような感じで
歌詞をまくし立てた。楽曲のアレンジは最高にカッコ良く気に入った。
「この曲、バンドスタイルで演奏すればもっと凄い曲になるぞ!」僕は思った。
しかしこのラップはあまりラップらしくはなかったが。
リズムは16ビートのシャッフルで黒子はボンゴを丁寧に叩いた。

更にこの曲から彼女はなぜか、モニターカメラを見つめて歌い始めた。
それは暗く悲しく、少し怖く何かを訴えるような目だった。
横に開く赤い唇紅の中の、形の良い平らで柔らかなピンクの明太子のような色の舌が艶かしくよく見えた。白と黒のステージに唯一、ピンクや赤系の口元は生えた。
森の中のコケティッシュな妖精を見ているような感覚でもあった。
昔、ケイトブッシュというアーティストがいたが、イメージが似ていた。

目をつむって弾いてたり、カメラ目線でずっと歌っているので、彼女はピアノを見ないでも十分弾ける証拠でもある。
「Sayoko恐るべし!そしてフレーズの引き出しがとても多い!なんだこの子」
呆然とする僕。
そして音と歌とモニター画面の彼女の目力に僕は内心、蛇に睨まれたカエルのようになった自分に気づき始めていた。
それは少し恥ずかしいが、久しぶりの遠い記憶のマゾ的な快感みたいな気持ちだったのを今でも痛切に覚えている。このようなエロスもあるのか?
「何を考えているんだ!」この会場でよこしまな気持ちでいるのは、きっと僕だけだろう。

ボーッとそう思い、ふと何気なく右隣にいたヒゲのおじさんの顔を首の角度を変えずに横目でさり気なく凝視すると、彼も気持ち良さそうなトローンとした目で、とても愛しそうにSayokoを見つめ、口が半開きに空いていた。
おじさんは余りにも間抜けな顔だったので、僕はずっと見ていたら、本人もハッと僕の視線に気づいたらしく、僕にゆっくりと振り向いた。
その瞬間、僕は素早くステージの方に目玉を戻した。
彼に気づかれずに済んだようだ。
人間の首の速さよりも目玉の動きの速さが勝っている事を発見した。
たぶんストリップを見ている人の男達の顔も、あんな感じなのだろう。
と、思いながらも自分もあんな顔で見ていたのだろう。などと考え、なぜか男としてはずかしくなった。
結局、会社へのメールの送信もすっかり忘れてしまった。
次の曲のイントロが鳴ると客は喝采をした。

歌の6曲目「Fineフィーネ」モダンなシャンソン系の曲

歌詞
A もしもこの映画が終わってしまったら
あなたは何処へ行くのでしょう
たとえそれが儚い恋でも
過ごした夜は いつまでも明けない

B 時は流れて 思いは季節に流れるだけ
立ち尽くした私を残して

C Don’t Say goodbye ai
行かないで 行かないで 行かないで
あなたがいないこんな夜

A もしも微笑みから涙がこぼれたら
あなたは何を想うのでしょう
プラチナ通りでセピアを歩く
交わした愛は 心に刻まれる

B 時はめぐり 想いは季節に問いかけるだけ
悲しむだけの私を追い越してゆく

C Don’t Say goodbye ai
行かないで 行かないで 行かないで