小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

2020.5.13「和音占い師Sayokoのライブ」にて

INDEX|2ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

「お!いよいよだね!ライブ!ライブ!」僕がはしゃいで言うと、
リナが「シー」と人差し指を口に持っていって言った。
「はいはい」僕は片手でポーズを取り黙った。
すると場内が先ほどとは打って変わってシーンと静かになった。

こんなに静かになるものか。僕は関心していると、さっとステージに
白いドレスのような服を着た女性が現れた。一歩引いた後ろには歌舞伎の黒子のようなカッコの小柄のがっしりした人が立っていてその人はすぐに、素早く深くお辞儀をした。
「sayokoさーん、先生!」場内の拍手と歓声がいきなり雷のように湧いた。凄い人気だ。

そうです。この時、僕が初めて見るその女性がSayokoだった。
身長は160cm位で中肉中背、特別な美人ではなかったが、
とにかく肌の色が白かった。そして目はリナと同じ位大きくキラキラ光っていた。
耳には蝶か花の形のイヤリングかピアスが見えた。
何よりもビックリしたのが、腰まである真っ黒な長いストレートな髪がCMに出てくるような女優みたいで、絹のようにサラサラと綺麗だった。
そして不思議と風も無いのに髪がなびいているようにも見えた。
どう見ても田園調布や成城の音大生のお嬢様やピアノの先生と言う感じだった。

彼女は後ろの黒子とは違い、軽く会釈をするだけだった。
黒子(くろこ)はパートナー女性の名前ではなく、歌舞伎に出てくる黒子のカッコをした人間だった。男性か女性かも分からない。なにやらパーカッションを再チェックしているようだ。

しかし僕は、その時の彼女の笑み、笑い方を僕は一生忘れる事ができない。
何と表現するか、ほくそ笑むと言うか、何か冷たく上から目線のような、けしてオーディエンスに媚びていない「ニヤー」とした閉じた口の形だったと記憶している。
その唇も薄く形は良い。そして嫌味でない薄い赤い口紅がひかれていた。
顎を引いて上目づかいに客席を見回した。

ゆっくり白いグランドピアノに座り、ピアノに一礼した。右手で白い飾りのあるピンで止めた右耳の髪をさわり、かき揚げ、首の体操らしき動作をして、顎を引きしばらく目をつむって集中しているようであった。
短距離スタート直前のアスリートを見ているようだ。
場内は静寂に包まれている。誰も声を掛けられる雰囲気ではない空気になった。
僕らの客席から観ると右横顔で、うつむき加減の彼女の横顔は、この静寂を楽しんでいるかの様にも見えた。
1分位はたったか?僕はそんな時、急におならがしたくなり、思い切りお尻をしめた。
その分、人よりもをとても長い時間の演出を味わった。

「Sayokoです、こんばんは」

マイクに小さな声で囁いたかと思うと、ゆっくりと静かなインストメンタルを弾きだした。
黒子はメロディチャイムを鳴らし、マラカスでゆっくりリズムを作りだした。
驚く程グランドピアノの音は音域や音圧、音の拡がりがあり、さすが楽器の王様と言われる楽器だと痛感した。音はJBLスピーカーから原音を超える遥かに良い音になってオーディエンスを包んだ。

「やっぱり本物の楽器の音はいいな」僕はそう思った。
CDを聴いている客はその曲を知っているらしく、ため息と共にその雰囲気に合った、さざ波のような拍手でそのピアノの旋律を歓迎した。
清楚で美しい調べという感じの曲だ。十分BGMには聞ける曲と演奏力だ。
しばらく僕はサウンドやメロディの心地良さを感じてうっとりしていたその時、
彼女は突然ゆっくりと喋り出し、僕は少しはっとした。
それはラップなのか、セリフの語りのようでもあり、和音のトーンに溶け込んでいる音の高さの声で耳障りではない心地よい喋り、音だった。

語りMC

今夜も雨雲を呼びました。
外の雨音と、あなたが運んで来てくれた雨の匂いと、拍手の音、手拍子リズム。
それとパーカッションとで私のサウンドが成り立ちます。
ありがとう、今夜も一緒に楽しみましょう。

私は雨が大好き。あなたも雨が好きですか?
もしよければ、今日みたいな雨の日。そんな時は私を思い出してCDをかけて私を
あなたの部屋に導いてくださいね。
よろしくお願いします。
あと、できればCDは東の部屋に飾って下さいね。

以上

発音と綺麗な声で朗読力のあるセリフ語りだ。
このBGMのインストルメンタルは「雨音ピアノ」と言うタイトルで、
手元のパンフレットに書いてあった。

僕は彼女の「今夜も雨雲を呼びました」
と言う野付の言葉がおかしくておかしくて吹き出しようになっていた。
「何だ、あの子、大丈夫かな?気の違った音大生の発表会コンサートじゃないの?」
「くっ!」
内心そんな事を思ってつい鼻で笑ってしまった。

リナはそれに気づいたらしく、同じように僕を横目で見て鼻で笑った顔をした。
リナは俺の考える事や、感性をよく把握している。

いつの間にかその曲が終わり次の曲になって、彼女の歌を聴いた瞬間にびっくりしてしまった。

歌1曲目「最後のキャラメル」と言う、童謡や唱歌のような曲だ。

歌詞

A 机の引き出しに隠れんぼうで、忘れ去られていた
小さな白いサイコロに2つ入りのキャラメル
1つは食べてしまったから
ラストの1つはあなたと二人で味わいたいな

B 私から舐めて毒見をして
キャラメルを舌の先に乗せ
大好きなあなたに口移しであげる

C 何度も何度も二人で舐め合って
最後にキャラメルはあなたの口の中で
逝ってしまうの?

何度も何度も舐め合って
最後にキャラメルは私の口の中で
溶けて無くなるの?

A サイコロの目の1がこちらをじっと見つめている
背番号1はエースナンバーだよね
キャラメルは独りぼっち
結局、最小単位になってしまうのね

B つがいの小鳥のように
口移しで喜びを分かち合い
甘さに二人の心はさえずる

C 何度も何度も二人で舐め合って
最後にキャラメルは私の口の中で
落ちてゆくの?
何度も何度も舐め合って
最後にキャラメルはあなたの口の中で
溶けて逝ってしまうの?

「何だ、この歌?この世界・・・」
僕は美声には驚いたが、子供じみたキャラメルの歌だった。
典型的な声楽の歌唱。
わかりやすく言うと小中学校の音楽の先生のような歌い方であった。
ファルセットを使いながらも結構声量があり、マイクも10cm位放して歌っていた。
場内も僕の心中とユニゾンをしてどよめいた。その後、拍手が波のように鳴った。
清水のように澄んでいて、高音のトーンが何とも言えずに美しい綺麗なチャーチボイスだ。
歌の2曲目「希望のうた」も同じような曲が続き、僕はすっかり彼女の声楽に魅せられてしまった。ピアノも声楽も教室を開いてもおかしくない位のレベルで少し安心してしまった。

続く、歌の2曲目「希望のうた」は小学校の音楽教科書に出てくるような歌だ。

歌詞

A 星の砂 探していたあなたへのプレゼント
果てしなく続いている砂漠の陽炎が

B できるならこの熱い想いを
送りたい 星の形に変えて

A喜んで笑っているあなたのその顔を
灼熱の夏の空 想い浮かべている

C 時は願いを叶えてくれない
何もしないで 眠っているだけじゃ
だからさあ行こう!どこまでも夢を描いて
行こう 行こう どこまでも