怒りんぼのカオリちゃん
セブンイレブンと薬局のあいだの路地を入って三軒目の、青いさんかく屋根がカオリのお家。去年パパがクリーム色に塗ったフェンスは、雨を吸ってまだらもようになっている。
「よお、チビちゃんお帰り」
パパは、庭でゴルフのスウィングの練習中。気取って、ひと振り。首をひねって、もうひと振り。腰をとんとんたたいて、またクラブをかまえなおす。
「ねえパパ、ホワイトデーって知ってる?」
カオリがそうたずねると、パパのスウィングがぐらりと乱れた。
「知らん知らん、だんじてそんなものは知らんぞ。ママには、このあいだ結婚記念日だからといって高ーい、高ーい指輪をねだられたばかりだ。だから俺はホワイトデーなんて知らん、こんりんざい聞いたこともない」
玄関のドアをあけると、バターとミルクとベーキングパウダーのまじりあった甘いにおいがした。ちょうど今、カオリのぶんのホットケーキが焼きあがったばかり。グッド・タイミング!
「あらあら、せっかくくれたクッキーを断っちゃったの? もったいないわねえ、そういうのは素直にもらっておけばいいのに」
あつあつのホットケーキにはちみつとマーガリンを塗りたくっていると、ママが残念そうに言った。
「カオリ、あんたまたからかわれて、ぷんすか怒ったんでしょう? すぐにカッとなっちゃダメじゃない」
むぐぐっ、ホットケーキをのどに詰まらせた。ママってするどい! パパのついたウソなんか、いつも一発で見破っちゃう!
「ママの教えた秘密の呪文はどうしたの?」
ちゃんと唱えたわよ、でもぜんぜん効き目なし。
「そういうの受け取ってもらえないと、男の子はすごく傷つくものよ。明日ユウくんに会ったら、ちゃんとごめんなさいしておきなさいね」
「えー、やだよ。カオリは悪くないもん。あいつが悪いんだもん」
「そうやって、すぐひとのせいにするのはいけませんってママいつも言ってるでしょう」
だんだんママの機嫌が悪くなってきたので、カオリは食べ終わった食器をキッチンへ片づけるなり、また家を飛び出した。道路もだいぶ乾いてきたので、今度は水色のスニーカーをはいてゆく。
「行ってきまーす」
「そんなにあわてて行くと危ないわよ、車に気をつけてね」
「はーい」
作品名:怒りんぼのカオリちゃん 作家名:Joe le 卓司