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怒りんぼのカオリちゃん

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 とつぜん、わあっとグラウンドのほうで歓声があがった。見ると、シアトルマリナーズの帽子をかぶった男の子が、仲間にかこまれガッツポーズをしている。どうやら試合でゴールを決めたらしい。ふん、ユウのくせに生意気ね。あらあら、あんなにはしゃいじゃって、これだからガキはキライよっ。ごらんなさい、あの頭の悪そうな顔、前歯なんか一本欠け落ちてるし……。なんて心のなかでバカにしてたらユウのやつ、一瞬だけカオリのほうを振り向いてにやっと笑いやがった!
「ううっ、カオリは怒ってない、カオリは怒ってない、カオリは心の広い女の子、こんなつまんないことで……」
「え、なあに? カオリちゃん」
 ミーコが小首をかしげたので、カオリはあわててかぶりをふった。
「なんでもない、こっちの話……」
 あぶないあぶない、つい秘密の呪文を口に出してつぶやいてしまったわ。これは心のなかで唱えなさいってママが言ってたのに。
 春の公園は、枯れた芝生にもようやく緑がもどって、そこらじゅうでサクラ餅やヨモギ饅頭とおなじ、こうばしい草のにおいがしていた。やっと咲きはじめたタンポポに、うんせうんせっ、ハナムグリが首を突っ込んでもがいている。見上げると、お日さまはもう南のお空の一番高いところ。そろそろお昼の時間かしら。
「あ、わたし午後からママとデパートへお洋服買いにいく約束してたんだ」
 ミーコが思い出したようにつぶやいてベンチから立ちあがった。つられてサワちゃんも、お腹がすいたので家に帰ると言い出した。そういえばカオリの家でも今ごろママがホットケーキを焼いてくれてるはず。じゃあ、いったんお昼を食べに帰ろうということになって、みんながベンチから腰をあげた。そのとき……。
「よう、カオリっ」
 いつのまに忍び寄ったのか、すぐ後ろでユウがポケットに手をつっこんだまま、へらへら笑っていた。カオリはびっくりしてぴょんと飛びあがった。