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遙かなる流れ

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こちら側には私と叔父。そして向こう側にはその人と母親と思える方が座りました。叔父が紹介をしてくれます。
「和子、こちらはこの庭園と料亭の主の新田哲夫さんとそのお母さんのミヨさん。ミヨさん、哲夫さん、これは私の姪の和子です。もう26になるのですよ」
 叔父はそう言って紹介してくれました。そうです。これは”お見合い”だったのです。昼食と偽った「お見合い」でした。

哲夫と紹介された方は私よりも背は少し高く(私はこの頃の女にしては高く164ありました。色は真っ黒に日焼けして、しかも体格が良いといえば言い過ぎで、ハッキリ言って太っていました。そのくせ顔は痩せていて、目が奥に引っ込んでる。そうですね外人の様な骨格をしていました。目は大きく笑うと白い前歯がハッキリと見えました。今まで何回かお見合いはしましたが、一番の不器量と言っても良かったです。良い点は私よりも背が高かった事です。
 出された料理は見事なものでした。何でもここはある花が有名でその時期になると政財界の大物がお見えになる程の格式のある庭園と料亭だったそうです。話は他愛もないものばかりでした。
 私が青森から出て来た。と言うとその哲夫さんは、その方面に詳しいのか青森の歴史や産物などを子供に教える様に話すのです。
 その姿は、まるで宝物を見つけた子供が一生懸命に皆に教える様な感じでした
「悪い人では無いかも知れない」
 それが、第一印象でした。
 元々、結婚生活には興味はありませんでした。父の放蕩ぶりを見て育ちましたから、家庭を持つと言う行為に興味が持て無かったのです。ですから、今迄のお話は全てお断りさせて戴きました。随分な資産家の方ばかりでした。でも私は、どうしてもその気にならなかったのです。
 食事が終わると叔父が
「哲夫さん和子に庭を案内してやって下さい」
 そう言って、二人だけになる事を勧めます。
「じゃあ行きましょうか」
 哲夫さんはそう言って私を釣れ出しました。
 お庭は秋の花が咲いています。萩のトンネルをくぐり、少し色づき始めた椛の下を二人で歩きます。この時何を話したのか、覚えていません。私もそれだけ緊張していたのでしょうか?奥には大きな池がありました。その池を廻る様に藤が植わっています。
「四月の末になると、この藤が咲き出します。これは色々な色を考えて植わっていますから、色トリドリで綺麗ですよ」
 哲夫さんはそう言ってにこやかに笑います。
「このお庭の手入れは、繁太さんがなさっているのですか?」
 私の問に彼は
「そうです。私だけではありませんが、先頭になってやっていますね」
 花を愛でる人に悪い人はいない……私はそう思っていました。
 お座敷に帰ると、叔父と繁太さんのお母様がお茶を飲んでいました。
「おお、帰って来たか」
 叔父はにこやかにそう言うと
「それでは、今日の処はこれで……」
 そう言ってタクシーを呼んで私達は帰りました。

「どうだ和子、どう感じた?」
 叔父は家に帰るなりそう私に訊いてきます。
「どうだと言われても……ただ、いい人だとは思います」
「そうか、じゃあ向こうに良い返事をしておくか」
そう言って叔父は電話の受話器を取り上げます。
「ちょっと叔父さん、もう少し考えさして下さい」
 叔父は私のその言葉を訊くと、がっかりして、受話器を置いて
「明日には返事をしなくちゃならん……頼むぞ」
 そう叔父は言いましたが、私は
「東京見物だと言ってたのにお見合いだなんて、なんか騙された感じです」
 そう私が言うと叔父は
「東京見物にはちゃんと連れて行くよ。それにお前もいい歳だ。青森じゃ資産家の話をことごとく断って来たそうじゃ無いか、まあ資産で嫁に行く訳じゃ無いけれどな」
 そう言われては私も何も言えません
「せめて、一晩考えさせて下さい」
 そう言って私はその場を収めました。
 私は奥の部屋を与えられ、そこで寝起きしています。そこで、布団を引いてそこに寝転び、今日あった事を考えます。
 このまま青森に帰っても特別に良い事はありません。妹は既に彼氏がいて結婚の話を出ている様です。
 弟は学費は上の弟が出していますし、自分の生活費はバイトでしっかり稼いでいます。むしろ、今では私が家のお荷物になりそうです。父が亡くなり介護の必要が無くなった今、その時期に来ているのかも知れません。
それに、今日会った繁太さんは、今までで一番醜男かも知れませんが、何故か私は一緒に居て安らぎを覚えたのです。
 人には時期と言うものがあると言います。私にもあるなら、今がその時期なのでしょうか?きっとそうなのかも知れません。私はこの出会いが運命的な感じがしていたのです。
 明日、叔父に良い返事をしましょう。そう心に決めて、その日は眠りにつきました。でもその決断により私の運命は信じられない展開をする事になるのです。

作品名:遙かなる流れ 作家名:まんぼう