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囁き

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ラジオだ・・・ラジオの放送がおかしい。
耳に入ってくる実況中継は変わらない・・

”打球は三遊間をまっぷつに割って、レフトが・・あ、ボールをはじいた!
三塁コーチは腕を大きく回している!ようやくレフトからボールが帰ってくる!
サードランナーに続いて、セカンドランナーもホームイン!
打ったバッターはセカンドへ!
3回の裏、4対3、ジャイアンツ逆転!”

だが・・それ以外の音が聴こえてくる・・それは声なのか
なにかを囁いている・・なにか途轍もなく悪意に満ちたなにかを囁いている・・
私はとにかくラジオを止めたくて古いラジオのスイッチを切ろうと手を伸ばしたが、ひねった瞬間スイッチが壊れてしまった。ならばコンセントを引き抜こうとするが、古ぼけた重たい茶箪笥の裏に電源があるようで、引き抜くことが出来ない。茶箪笥を押し倒そうとしても重すぎてびくともしない。
たまりかねて私は古ぼけたラジオを茶箪笥の奥から力任せに引きずり出し床に落とした。線が切れて裏蓋が壊れて飛散した。
ざまあみやがれ!これで音がしなくなるわ!忌々しい囁きを聴かされずに済むわ!

だが、音は鳴りやむどころかますます強くなった・・・。

いったいなんなんだ、これは!

これは北の国の工作員向けの放送なのか?
いや違う、もっとなにかもっともっと悍ましいなにかの囁きだ、とてもこの世のものとは思えない・・幽霊?いやそんなものが存在するはずがない、では人間ではないいったいなにものがこの地球のどこかでラジオの電波に乗せて悪意に満ちた囁きを垂れ流しているのか?この地球上?
いやひょっとしたら地球ではない宇宙のどこからか・・
じゃ、そもそもなんでコンセントの繋がっていないラジオが鳴っているんだ!
乾電池が入っているんじゃないか?そんなはずはない。
裏蓋が壊れて乾電池が入るスペースなんてどこにもない!
だいたい何十年もの間、ラジオが鳴り続けるはずがないじゃないか!
私は取り乱したが、既に耳から入ってきている恐らく電波か音波か・・恐らく特殊なものだ。
得体の知れない音が私の脳に囁き続けている!
私は頭を掻き毟り、耳を塞いだ・・だが・・耳鳴りのように・・
そして・・波長が合った・・その瞬間・・!
あぁ・・なんということだ!
 
なぜ指物師の祖父がある日突如として手首を切り落として果てたのか?
なぜ機械屋だった父がある時から古代史に傾倒し思いつめたようなメモを残して自殺したのか?
ふたりとも堅実な技術者だった、健康であったし、借金もなかった・・ではなぜ自殺したのか?

あぁ、いまならわかる・・。

ラジオは今日も酷いニュースを伝えている。
中東の暴力組織がテロ事件を繰り返して、今日もまた犠牲者がでたらしい。
放射線に汚染された水が今日も海に流れ出しているが、発表する電力会社の担当者は手慣れた謝罪をするだけだ。
認知症の老人が幼い子供に切りかかって殺してしまったらしい。
そして、その裏の囁き声は私に語り掛ける。

”どうだ、酷い世の中だろう。この先、もっと悪くになるんだぞ。
テロが横行して、若年化した凶暴な犯罪がどんどん増える。
誰もが誰も信用できない世界だ。
放射線で汚染された空気を吸いながら、汚染された水を飲みながら。
どんな病気に罹るかもわからない。
払い続けてきた年金なんてもらえるはずはないしな。
身体は云うことを聞かなくなるわ、ぼけちまって、醜くなるだけだ。
老害として白い目で見られて、社会のお荷物になるだけだ。
長生きしたところでいいことなんてありゃしないぞ。”

 これは半島国家のえげつない作戦か?
それとも先々の財政破綻が目に見えている我が国政府の少子高齢化対策の策略か?
とんでもない。これはもっと深淵なる存在からのメッセージなのだ・・。
そのことにふと気づいた。サブリミナルのような洗脳を施されていたというのか。

 要するに人類は”彼ら”の食糧として養殖されたものに過ぎないのだ。
その巨体を横たえるために地上より広い海底に移り住んでいった古のものたちの・・。
再び活動を開始した”彼ら”によって人類は手足を捥がれ、生血を啜られ、骨は粘液で溶かされて、吸収されてゆくのだ。
地球の支配者が人類だなんて思ってはいけない。地球全体の七割は海なのだから。
あぁ、思い上がった人類よ。なんと儚い存在であることか。
 だが私のような経年劣化したものには食糧としての価値すらなくなる。骨が硬くなり、彼らの好物の脳味噌も衰えてきたからだ。だから年老いた不良品を効率的に除外するための方法として、自己崩壊、つまり自殺をさせるのだ。電波を用いて自殺を呼びかけるとは、実に頭の良いやり方だ。不良在庫の一括処分だ・・。これならテレビほど目立ちはしない。
あぁ、なんてことだ、右手が勝手に短刀を握ってしまった。
自分の思うように体が動かせない・・
なのに勝手に左手首を短刀で切ろうとしている・・
彼らにコントロールされているというのか!
やめてくれ!
ラジオを止めてくれ!
こんな死に方はしたくない!
養殖されたとしても人間には尊厳というものがある・・こんな死に方は御免だ!
ならば・・”彼ら”に食されるのがいいのか?いや、ダメだ!

ラジオからドビュッシーの曲が流れている。
”さぁ、右手を振り上げろ!”

誰か、ラジオを止めてくれ!




作品名:囁き 作家名:平岩隆