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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>

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僕達2人がいてカティサークの姿が見えないのもあるのだろう。
「カティは今寝てる」
ヴィラローカの言葉に
「何かあった?」
心配そうな声を上げた。
「『禁域』にね」
まじめに話そうとすると重たくなりそうだからか、ちょっと目をそらして完結に単語だけ告げる。
「『禁域』に?…その割には早かったみたいだね」
やはりリシュアは知っているのか。
そのまま部屋に入ってきて僕とヴィラローカの間に座る。
…そこが入り口から近いし、カティサークの部屋からも近い。
「今までのことがあるから当たり付けて行ったのもあるけど、『こっちかな』って気がしたほうに行ったらいたのよね」
そういえば道中今までは「何日も掛かることがあった」とも言っていた。
「で、様子は?」
ちらちらとカティサークの眠る部屋の様子を気にしている。
「現地でスプライスが何かみたらしいけど、見つけたときから今までずっと眠りっぱなし」
「あぁ…」
と僕をみて
「大丈夫でした?」
心配そうに問われた。
僕以外に同じような体験をしたというのはリシュアだったか。
リシュア以外にもいるだろうか。
「ちょっと感慨深くなっちゃったけど、別になんてことない…」
「何見たのか聞いていい?」
もしかしたら今までも気になっていたのかもしれない。
僕が平気そうなのを見てグイッと詰め寄ってきた。
「ヴィラローカの…もう一人のヴィラローカのことをちょっと」
「もう一人の…?」
もう一人のヴィラローカの話は、こちらのヴィラローカとカティサークにしかしてい無い。
「スプライスの恋人の…伴侶だっけ?だって」
どちらでもいいんだけどね。
リシュアが驚いたように僕を見るので、ヴィラローカの言葉が事実であるとうなづくと益々驚いていた。
「ということは、ここに滞在して長いですからスプライス様寂しいのでは?」
それには僕もヴィラローカも「うーん」と唸る。
ヴィラローカとしては「話しても良いのか?」というのもあるだろうし、僕としてはソレを話し始めると大分話がそれるかな、と。
「まぁ…もともと長いこと会えない状態でずっと会って無いし、急に会えることになるわけでもないから」
さっき見た最後の映像が事実かただの夢かわから無いけれど、数ヶ月、数年のうちに会えるとは思えない。
ただ、絶対会えると思う。
その分だけ気持ちがまた『待つ』ということに対して迷い無く考えられるようになった。
ただ、信じて待てばいいだけなんだ、と。
「スプライスすっきりした顔してるよね?」
ヴィラローカに言われて「そうかな?」とも思ったけれどそうかもしれないとも本人でも感じた。
?
リシュアは幾時間も滞在していたけれど、カティサークの気配に変化はなく一度帰る事になった。
『一度』というのはやはり気になるのか「また来る」と言っていたから。
以前ヴィラローカが怪我をしたときとは逆の状況である事に思い至る。
同じ部屋でカティサークとヴィラローカが目覚めるのを待っていた。
あの時はまだ原因がはっきりしていたからいいけれど、今回は少なくとも僕にとって未知の原因。
ヴィラローカは過去に経験済みだからか落ち着いて見えた。
「そういえば」
ヴィラローカが顔を上げて窓の外を見る。
木々の間から見える空が赤かった。
夕方だ。
空気で判別は出来るけれど、やはり森の中の村だからか空が広がって見えるわけでもなく(有翼人はこの木々よりも高く飛び立てばひらける大空を見渡せるから関係無いのかもしれない)時間の判別は体内時計に頼る事も多い。
今日は朝から変なところへ行ってしまい大分狂った。
「スプライスの仕事、そろそろ終わりなんじゃない?」
「……え?」
夕飯をどうするのか聞かれるのかと思ったから、あまりにも意外な言葉にヴィラローカをぽかんと見つめてしまった。
当のヴィラローカは他愛のないことのようにいつもどおりだ。
「そう思ったから」
ニッコリ笑うさまを見て…ふと浮かんだ事がある。
「もしかして僕って疫病神…?」
僕がこの家に来て、空いていた部屋を塞いでしまった。
なんだかんだといいつつあの部屋は二人の父の部屋だった場所だから思い出もあるだろう。
それに僕が来てからヴィラローカのことがあったし、カティサークの今回の件だって以前あったとは言ってもしょっちゅうあることでもないだろう。
「…『女の第六感』っていってよ」
第六感というよりも、観察眼があるのかな…?
本人草食中心というけれど、学校で教えている事を考えても狩人のようだし。
「でも、スプライスがいなくなるのは寂しいか。見つからない事にしてずっといる?…ってわけにも行かないよねぇ…」
僕の気持ちを察したのかまた笑って流す。
「僕もいつまでもここに居たいけど…ねぇ」
いつまでもここに居て、この生活を続けたい気持ちがあるのは事実だけど無理なのも分かっている。
無理な要因は多すぎる。
今回僕が仕事で来ていて、仕事が完了したら帰らなければならないことを抜かしても。
ヴィラローカだってカティサークだってそれぞれ生活があるし、いつかこの家から去る事だってあるかもしれない。
僕も仕事で世界中へ派遣される。
それを抜かしても。
僕はとても長い時間を今まで生きてきて、これからもそうだろう。
不老長寿(不死かもしれないけれど確認した事はない)の体は、あの人を待つにはいいけれど普通の人とはともに生きていけない悲しさもある。?
元々あの人と共に生きたいがためだけに手に入れた『不老長寿』という力。
今はあの人が新たに生まれ変わるのを待つために使用している。
ヴィラローカもその辺りは今までの話で分かっているから、笑って流す。
人によっては深刻になってしまうであろうことを、軽く明るく対応してくれるのはありがたい。
それも、居心地のよさなのだろう。


翌朝。
カティサークは目を覚まさず、リシュアがやってきた。
ヴィラローカは全て気付いているのだろう。
僕とリシュアでカティサークを見ているというと仕事に行ってしまった。
ヴィラローカが寝込んでいたときのカティサークとは全く違う様子だ。
「あのさ、リシュアに聞きたいことがあるんだけど」
ゆっくり話すような機会というのは今まで無かった気がする。
2人きりで話したことは幾度かあったけど。
「僕にですか?」
この家のある本のうち薬草に関しては結構読んでいるらしいが、他の本に関しては殆ど触れたことも無いらしい。
リビングにある本棚の本を眺めているところだった。
一冊を手にとろうとして、僕の言葉に手を止める。
「リシュアもカティに触れて幻覚…みたいなもの見たんだよね?何見たのか聞いていい?」
リシュアは驚いた顔をして…思ったとおりカティサークの部屋の扉を一瞥すると、迷ったように改めて手を掛けた本に視線を向けて、取って息をつく。
どうしようか迷ったようだけど、今ので自分の予測を改めて正しいのではないかと確信を持った。
リシュアを凝視するほどに見つめ続ける僕と視線を合わせないようにするかのように、顔を背けて、しかし手に本を持ったまま僕の傍に座る。
手に取った本のタイトルは『深遠』とだけ。
何の本なのか分からない。
「……カティサークのことです」
小さな声でポツリと。