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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>

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もしカティサークが起きて来ても聞こえないだろう。
それでも気になるのか、カティサークの部屋の扉前をふさぐ様に片翼を広げた。
灰色のような茶色のような色合いの翼だ。
「…もしかしたらカティではないのかもしれませんが、カティだと思ったんです…」
ソレはもしかして…
?
?リシュアの見た映像の中には、外見も年齢も時には性別さえ違う或る人が、場面も変えて主人公として出ていたという。
そこまで違うのに、何故かその主人公がすべてカティサークだとは分かったという。
分かったというか、感じたというか。
その話に出てきたカティサークたちは、どうやら僕が夢で見た者達と同じような気がした。
…それだけではないか。
あの『禁域』で見た、または声を聞いたカティサークであってカティサークではない者も同じではないだろうか。
カティサークの空想の世界が人に見えるという…わけでもないようだ。
コレだけ本があればいくらか物語の本だってあるだろうし、無かったとしても文化や歴史に関する本は多くある。
体の自由に動かないカティサークが空想を広げたところで不思議は無いが、中には僕でさえ見た事も聞いた事も無いような光景もあったようだ。

僕が見た夢の事もある。

カティサークには何かあるのだろう…


「でも、最後に見たのは僕の知るカティだったと思います」
そう告げるリシュアの顔は少しつらそうだった。

カティサークは果ての無い湖のようなところの浜辺に立っていた。
不思議な香りのする地だったという。
(それは海ではないかと思う)
どこか悲しそうに水平線を見つめて、立ち尽くしている。
誰かがカティの名前を叫ぶように呼びながら駆け寄ってくるが、その手が肩にかかる前に…カティサークは風にかき消されるように消えてしまった。

そのまま似て非なる地の光景が現れ、海の中に浮かぶ孤島の洞窟(人の手が入っているように見えた)の前で、リシュアとカティサークは対面した。
「ごめんなさい、僕行かなくてはいけないんです…」
悲しそうに、どこか無理して笑おうとしながら謝る。
「行かないで…行かないで、俺のそばにいてくれないか?」
この言葉はリシュア自身が驚いたという。
(これは見た映像の中の出来事で、当時リシュア自身そこまでカティサークを意識しているとは思っていなかったのだそうだ)
カティサークはリシュアの言葉にただ悲しそうに微笑んでいる。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
謝りながら、一歩一歩後ろに下がってゆく。
下がりながら表情もゆがんで目に涙が溜まっていた。
「…俺が守るから…!」
渾身の力をこめて声を上げると、カティサークの目から一気に涙があふれ出た。
「ごめんなさい」
溜まらず一歩踏み出してカティサークに触れようとしたと所…今度は自分の手が砂のようになって崩れ落ちた。
手の先が崩れ落ちたのならば更に進めば…と手を伸ばすとカティサークの一定距離内に入ったからだの部位が消えてゆく。
それでも、先に進みたかったが…

「ごめんなさい」
?
「その時はっきりとカティに対する自分の気持ちを知ったんですが、同時にその件について口にしてもいけないと思ったんです」
だからカティサークとリシュアには進展が無いのか。
どうやら周囲がリシュアの気持ちを察しているのも、リシュア自身感じ取っているようだ。
かといって、本人にはっきりと告げられない理由もある。
細やかな恋愛の取引という事をしたことは無いから経験は無いけれど、気持ちを考えるくらいは僕だって出来る。
どうやっても受け入れてもらえない、もし受け入れてもらえたとしても悲劇的な結末が待っているだけ…
「リシュア…もし今急にカティサークに会えなくなるとしたらどうする?」
「え?」
急な僕の言葉に驚きの声を上げただけで咄嗟に頭が回らないようだった。
「一応猶予はあるんだけど、会えなくなるよって状態になったら…」
そうなったら告白だけはするのだろうか。
それとも胸に秘めておくのだろうか。
「……その時にならないと分からないですね……」
難しいか。
でも、僕はリシュアに言わなければならないことがある。

「リシュア、僕は君を使神官の従獣者に推薦しようと思うんだ」

「………」
改めて驚いた表情でポカンと僕を見つめた。
使神官の従獣者は名誉な事だけど、指名された人にしてみれば故郷を離れ未知の地で一人の神官につかえなければならない。
期間未定。
一生涯かもしれないし、数ヶ月から数年かもしれない。
本当は、別に恋人や家族がいれば連れて行っても構わないけれど、リシュアは微妙だ。
片思い中だし、そもそも片思いでなかったとしても連れて行けない。
カティサークはこの地を離れて生活できない。
しかし、僕はリシュアが従者に良いと思った。
『どこが』かは分からないけれど、何か適正を感じたんだ。
「だから『会えなくなったらどうするか』ですか」
「別に従者の話受けなくても良いけど、そうなっても僕はこの村から離れるだけかな。リシュアをつれて去るか、一人で帰って再度どこかの地で探すか」
もしリシュアに断られたとしてもこの村の他の人から出せといわれそうな気もする。
しかしこの村ではリシュアが一番だと思ったし、他を改めて考える気がしなかった。
「………」
従者の話を受けるのか、カティサークに対してどうするのか、リシュアの中で渦巻き始めたようだった。
?
?
ヴィラローカが帰ったのは午後日の高いうちだった。
「話し終わった?」
と言ってしまう辺りや何処まで話が分かっているのか・・・
「あ、うん・・・」
リシュアはアレからずっと迷っていた。
色々と。
こうなるコトは分かっていたけど。
けど、タ・ルワール様も特に理由も無くあっさり従獣者を引き受けるような人は好みではなかったなぁ…と思い出す。
僕自身は知らないがタ・ルワール様の初代と二代目従者の人もワケありだったという。
僕が知るのは三代目以降かな。やはりワケありの人だった(二代目従者の子孫だとも言っていた)。
リシュアがそんな状態である理由も分かっているからか、ヴィラローカ翼を出したままでは有ったけれどもいつもどおり特に人に気を使った様子も無く、堂々とリシュアの横を通ってカティサークの部屋のドアを開ける。
リシュアはビクッとソレを振り向く。
ベッドの上に寝かされているカティサークはヴィラローカの翼の影になって僕の位置からだと見えなかった。
起きる気配は無いようだ。
「んー…リシュア今日泊まってく?」
様子を確かめて満足したのか部屋のドアを閉めながら振り向く。
有翼人ってやはり翼で大分大きく見える。
ヴィラローカ一人増えただけで大分狭くなったような感じ。
「……いや」
「いつも三人でいるのに二人だと寂しいから、いてくれるとありがたいんだけど」
コレはヴィラローカ流の心遣いなのだろうか。
いや、しかし『泊まってく』って寝るのはどうするんだ?
「寝るのは私の部屋になっちゃうけどね。ハンモック私の部屋しか無いから」
奥にもう一部屋あるが使用できるハンモックは無いらしい。古くて使えないとか。
?
なんだかんだと丸め込まれてリシュアは結局泊まってゆくことになった。