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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>

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どうやらリシュアの態度からするに、この村でもさすがに同性愛はタブー視されているらしい。
しかも相手がカティサークでは…いや、カティサークなら分かるか。
「いつからといわれても…気付いたのも最近ですが、思い返せばいつからなのか…と」
うそをついても仕方ないと思ったのか存外素直に話してくれる。
まぁ、神官の能力が高い人には人の心を読む能力を持つ人もいるらしい。
そんな噂を耳にしていればうそも意味が無いと観念するか。
そもそもそんな能力を持っていなくても察せられるけど。
「女の子っぽいのとは違うけれど、カティも保護欲かきたてる?」
「保護欲っていうか…」
保護欲が芽生えるのはどちらかといえば女性的なものか。
「はっきり言って、カティサークのこと何も知らないと思うんですよ。でも気になるというか…」
「まぁ、カティもヴィラもカティ自身のこと知らないみたいだし」
その言葉に、リシュアが顔を上げてちょっと驚いたように僕を見る。
「ヴィラローカはカティサーク自身より知っているようですよ。以前訳の分からないこと言ってましたし。かといって、そのヴィラローカにカティサークのことを聞こうとすれば、やはり勘ぐられると思って聞けないんですよね…」
「だから、ヴィラは知ってるって」
「まぁそうだったわけですけど…」
今知ったことだから仕方ないといえば仕方ないんだけど。
でも、リシュアが言うことが本当ならばヴィラローカはカティサークのことをどこまで知っているのだろうか?
根本的にカティサークが何者なのかが、そういえばわからない。
引っかかってくるものがイマイチ無い…いや、あったか。
先日の夢。
『白いヴィラローカ』が出てきて示した先にいた。
あの夢からすると、リシュアの思いはカティサークに届かない。
でも、その先にカティサークが見た『光』は何を示していたのだろうか?
とりあえず、僕はリシュアに「応援するよ」とだけ告げる。
そしてリシュアはいつもよりちょっとぎこちないながらもカティサークと会話して、更に別の本を借りて帰っていった。
おかげでリシュアは現在この村の中で薬草に関する知識量は5本の指に入るほどらしい。
他の人はヴィラローカを落とすために外堀から固めているように思っているようだけど、なかなかリシュアも積極的ってことかな。
リシュアはカティサークに告白するのだろうか?
「何かあったでしょ」
リシュアが帰った後、夕食の準備をするカティサークの様子を確かめつつヴィラローカが僕に耳打ちする。
「……何かって?」
どう答えたものか一瞬迷うけれど、ヴィラローカが具体的に何を聞き出したいと思っているのか確かめることにした。
ここでぼろを出すとリシュアに申し訳ない。
「さっきリシュアぎこちなかったじゃない。何か言ったの?」
「言ったというか、セザークに、アルニーニに告白するようにって皆で焚き付けたりしてたのも関係あるかな」
「ふぅん…」
ちょっとずれていたかな?
リシュアの心情を考えるように手近に転がっていた本を一冊手に取る。
「皆、急がないといけないような年頃か」
手に取った本を開くことなく表面だけ撫でて、返ってくると思った言葉とはちがうものが返ってきた。
「年頃…」
失念してた。
「あの辺り結婚適齢期でしょ?いけるうちに、もらえるうちに結婚しておかないと勝手に決められるのよ」
「勝手に?」
初めて聞く話だった。
「『この辺り』の風習らしいけど、年齢がいっても結婚しない場合は村の外の人間と結婚させられるの。だって同じ村の中でばかりまとまっていたら血が濃くなってしまうから」
と言う割には、ヴィラローカもカティサークもその気配が無い…って…
ヴィラローカはバツイチか!
カティサークに至っては翼人でもないからそういうものにカウントされないのかもしれない。
「噂だと、ちょうどアルニーニにそんな話が持ち上がっているらしいよ?」
「!それは急がないと?!」
セザークに急げと発破をかけに行きたくなる。
…でもそんな周囲の状況を見て他人事のようなヴィラローカ。
もう結婚する気はないのだろうか?
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか「そうだね…」と続ける。
「リシュアだってそろそろ老人達が勝手に嫁候補選定しているかもしれないか…」
そうだねぇ…
アルニーニとセザークは半ば付き合っているようなものなのに、ちゃんとした恋人ではないために勝手に他に縁談が持ち上がっているかもしれないという。
それならば尚更リシュアなんて縁談持ち上げやすいのではないだろうか。
「ちなみに」
と、手に取っていた本のタイトルを僕に見せてにっこり笑う。
タイトルは『地の民の神殿』。
「ウチの両親はこの村の人間じゃないからね、わざわざ外の人間と結婚する必要も無いし、こんな姉弟だから放置なのよ」
別に放置しているわけでも無いと思うけれど…放置なのかなぁ?
でもリシュアにも縁談の持ち上がっている可能性は十分にある。
もしきたらリシュアはどうするのだろうか?
カティサークをつれて駆け落ち…なんて無理だし、カティサークのこと思っていることがばれただけで後々この村にいられなくなってしまう可能性もあるか。
密かに応援しているんだけど、どう転んでもうまくいかない現実も僕自身感じて始めていた。

そんなある日、朝起きるとカティサークがいなかった。
朝食の準備も無いし準備をした形跡も無い。
正確な時間が分かるわけではないけど、日の昇り具合から言ってもいつもどおりだろう。

「おはよう…?」
今日は用事が無いというヴィラローカが珍しく僕より遅く起きだしてくる。
のんびりした声を上げたのだが僕の様子で異変に気付いた。
「どうかした?」
と言いつつも何が起こったのかはわかったようだ。
気配を探ってみてもカティサークは家の中にはいなさそう。
部屋を覗いてみたがいなかった。
2人で家の外に出てみても周囲に気配は無く、少し前に出かけた…というわけでもなさそうだ。
「どこいっちゃったんだろう…」
薬草を取りにいくにしても書置きも無いし、何もいわずに形跡も残さずに外出するとは思えない。
良い年した大人だといわれても、だ。
僕が声を上げると、ヴィラローカが眉をしかめて唸っている…
「あぁ、ごめん!僕よりヴィラのほうが心配だよね?!」
「…うーん……」
うなり続ける。
そのまま何も言わずにきびすを返すと、一度家の中に入ってなにやら準備をしだした。
経過した時間は少し。
けれど外出着をばっちり着て、手に例の重たい槍を持って階段を下りてくる。
家の外に出たところで、その黒い翼を現した。
「スプライスもくる?」
心当たりがあるということだろうか?
歩き出すヴィラローカに従うように僕も歩き出す。
リシュアが言っていた言葉をふと思い出す。
ヴィラローカは周囲の人が思っている以上にカティサークのことを知っている、という話。
「以前も幾度かあったのよ」
あの重い槍を軽々ともって相変わらず眉はよっている。
もしかして、僕がいなければ飛んでいけたのではないだろうか?
しかし歩くとなると僕のほうが歩幅があって微妙に早い。その僕に合わせるかのようにヴィラローカは早足で歩をすすめた。