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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>

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ブレースが僕のところに訪れる余裕があったからだ。
僕の状態としては当初は相手も出来ない状態だったけれど、それでも時間がたつにつれてブレースの相手はできるようになった。
一時期人に会うのが嫌で、引きこもったような生活していたからねぇ。
僕の状態が緩和したところで、使神官の使いとしての仕事を任されるようになった。
そこでブレースと会う時間もなくなったんだけれども…ブレース自身にも訪れる余裕がなくなったと感じた。
久々に会っても、僕と反対で落ち着きがない。
いや、僕も落ち着いてはいないのだけれどもあちらは外見からして落ち着かない。
僕たち2人の一見対照的だけれども、或る意味同じ情緒の理由は同じものから来る。
それはヴィラローカ達、白い翼を持ったヴィラローカとその双子の弟のこと。
あまりにも時間がたつと、その気持ちが揺らぐのではないかという不安ももたげてくる。
特にアクティブなブレースはふとそんなことを我に返っては恐ろしくなるのだという。
”…そうは言ったけど、スプライス。近々僕もそちらへ行く”
「え?」
半ば冗談だったからその返答には驚いたが、ソレは…
”スプライスが思ったとおり…君の気持ちが固まった時に僕がそちらへ行くよ”
きっと遠方から僕自身が決めかねている僕の心も読み取ったのだろう。
ブレースと僕にはそういった繋がりがある。
これが妙なほどヴィラローカ達双子の兄弟とにているのだけれども…僕のほうからはブレースほどあちらのことを感じ取れない。
”心の納得が行ったときに呼んでね”
例の消去法で行っても当てはまる。
けれど、今決定してしまうと心残りがありそうでふんぎれない。
例の『消去法』だけども、もっと突き詰めれば全員が対象外になってしまう。
誰もが孤独に生活しているわけではないし、その関係を考えてゆけばその一人だけを引き抜くのは多少気がひける。
まぁ、相手と周囲がソレを許してくれればいいのだけれど。
?
?
  ***  
?


「スプライス様、どうですかね?」
村長の家へ挨拶へ言った時、咄嗟にどう答えようか迷った。
一応数日に一度は村長の家に顔を出している。
ヴィラローカが怪我した時は数日間が開いてしまったけれど、ヴィラローカの回復も思った以上に速く正直驚いている。
僕以上じゃないだろうかあれは…
「誰もが適任者と言えそうで迷っています」
そういって村長にはごまかした。
現状僕がこの村で顔を覚えているのは100人に満たない。
覚えていない人も多いけれど、その時点で既にふるいに掛けられていると考えるべきだと思う。
運という要素も大きい。
そのなかでも、以前考えたように幼い子供のいる両親や中年以上の人ははずす。
恋人のいる人も外したいし、両親の元に居たほうが良いと思える子供も外す。
あとなんとなく僕的なイメージにおける使神官タ・ルワール様の好みに叶いそうに無い人も外す。
そこまで絞った後に僕的な感覚で選択するとなると…
村長の家から出て暫く歩いたところ、村の青年達が幾人か集まっていた。
この辺りのメンバーは僕も覚えている。
ヴィラローカとともに学校の先生をしている主なメンバーでそれぞれ得意分野があるらしい。
頭をつき合わせて何事か相談している。
声をかけようかどうしようか迷ったのだけれど…
「神官様、こんにちは」
声をかけられたのでよってみることにした。
「何やってるの?」
「神官様も参加しますか?」
「?」
楽しそうに話してはいたけれど、何のことなのか…
「こいつを…」
とエ・ディティアが隣のオ・セザークを示す。
「アルニーニに告白させようって作戦ですよ」
ウ・アルニーニは僕も覚えている。
明るい髪の色をしたちょっとおっとりした感じのする女性だ。
と言うよりも。
「あれ、付き合ってたんじゃないの?」
そう思ってたんだけど。
「ほら」
と僕の言葉を受けてエ・リシュアが笑う。
「誰が見たってそう見えたんだから、今更告白したところでOKしかありえないさ」
「そんなこと言ったって…!」
まぁ、そんなこと言われても怖いものは怖いよねぇ…
セザークは頭を抱えてうなっている。
「……だったら」
ポツリと。
「リシュア、お前も好きな人に告白してみろよ!」
ハッとリシュアを見ると…顔が引きつっていた。
リシュアに好きな人がいるって言うのは知れていたんだ。
ただ、殆どは僕と同じようにヴィラローカに気が有ると思われていると思う。
「セザークと違ってもうちょっと時機を見ないと…」
その場は何とかセザークに告白させるような流れを作っておきつつ散会した。
僕はリシュアを連れてヴィラローカの家へ戻る。
「セザークの所はどう見たって恋人同士だから他とは違いますよね」
カティサークから先日借りたという本を持って僕と並んで歩く。
飛んでいけば早いのだろうけど、幾ら翼人の村とは言え誰もが移動のために常に翼を使っているわけではない。
とくにこの村は森の中に半ば埋もれるようにして存在するから、時にはその巨大な翼を使用できないことも多々ある。
「恋人じゃなかったことに驚いたよ」
「そうですよねぇ…」
……そうか。
「リシュアもそう思われたんじゃないの?」
さっきのセザークの言葉。
周囲も微妙に納得していた。
僕は近すぎて分からなかったのかもしれない。
「えぇっ、誰とですか?!」
本人自覚無しか。
「多分、ヴィラローカと」
ヴィラローカの家へほぼ日参しているのは知られているだろう。
「ヴィラローカですか…」
今だってそのヴィラローカの家へ行こうとしているんだし。
思い返してみて本人も納得する部分が多少あるのかもしれない。
考えて、納得して、多少青くなった。
「『将を射んと欲すればまず馬を射よ』……って?」
「?」
ヴィラローカが言っていた言葉。
いったいどこの知識をどうやって持ってきたのやら、この辺りは蔵書の詰まれたあの家らしい。
リシュアはさすがに知らなかったか。
「本当はカティでしょ?」
「!」

バサッ

思わず本が地に落ちる。
歩も止まってしまった。
「そっ…そんなに…分かりましたかっ?!」
顔の青ざめ方が著しい。
悪いこと言ってしまったかと申し訳ない気持ちになるが、はっきりしてすっきりした。
「僕は分からなかったけど、ヴィラが言ってた」
リシュアの落とした本を拾って、押し付ける。
このまま僕が持っていたら今日リシュアがヴィラローカの家に行く理由がなくなってしまう。
そうすれば、今にも逃げてしまいそうだったので。
リシュアは無意識に受け取って握り締めた。
「ヴィラローカが…?!カティは……」
「カティがそんなこと気付くと思う?ヴィラだって言わないって」
本当にカティサークはそういった感情と無縁そうだった。
それに、まさか自分が男から心寄せられているだなんて…思っても見ないだろうなぁ。
「そ、そうです、よね…」
ほっと息をつくが、表情は硬いままだ。
ヴィラローカが気付いていたんだから…他にも気付いている人がいるかもしれない。
でも、大体の人はヴィラローカのほうだと思っていそうだと思うのだけど
「いつから”そう”だったの?」
そろそろヴィラローカの家が見えくる辺りで、フと聞いてみた。