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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>

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そんな風なことが幾たびも繰り返される。
何を意味するのか分からないが、みているうちに「はっきりしてくる」。
これは夢なのだと。
でも、ただの夢では無いのだと。
そう悟ると、白いヴィラローカがニッコリと笑った。
意味を考えようと見ると…知った人が出てきた。
「!」
その青年はただカティサークをみている。
そしてカティへ向って両手を差し伸べるようにして…黒い翼が二人をさえぎった。
そのまま青年は消える。
黒い翼の持ち主はカティは見ずにあらぬ方向を視線で示す。
そこで初めてカティサークは顔を上げてその示す方をみた。
僕も見る。
すると、その方向から光があふれてきて・・・
総てを埋め尽くした。


『白いヴィラローカ』が、こういった形で夢に出てくるのは久々だった。
以前『白いヴィラローカ』がいたころは…そう、生きていたころは間々こういうこともあったけれど。
教えてくれないだけでは、という疑念をどこか他にやった上で言うなら、ヴィラローカはまだ生まれ変わっていないはずだ。
今は転生待ちの最中。
冥府の門番のようなことをしている知り合いがいるが、知り合いとは言え実際は使神官達の友人のような人だから使神官が情報差し止めを求めれば彼の人はそれに応じるだろう。
ヴィラローカがこの世から旅立って50年以上が過ぎる。
幾ら愛があろうとも僕自身は転生したかどうかといったところまで把握できない。
同じ血に生まれる、とは言っていたけれど果たして真実かは怪しいし。
信じているけどね。
ヴィラローカ一族は少産で、というより一代に一人しか生まれない。
例外で子供が複数生まれることもあるけれど、本当に例外中の例外だし、その一族の『力』は同時代には決まった一人の子孫にしか受け継がれない。
と、少々複雑なのだけれど。
その例外で兄弟がいるのがヴィラローカになる。
3人兄弟だ。
一人か、三人か。
三人のときとは双子が生まれた時だ。
双子は次代に力を残すことは出来ず、三人目がその力を持つ。
で。
ヴィラローカはその双子だった。
その片割れとは魂のつながりとしても双子であって、転生してもやはり双子で生まれてくるという。
そういうことを聞いた。
真実かはしらないけれど。
とりあえず、その一族に20年ほど前に一人の子供が生まれたがヴィラローカでないことは確かだ。
そろそろその子供も結婚しているかもしれないけれど、双子の子供が生まれたとは聞かない。
で、そうそう。
何故僕の夢にヴィラローカが出てこないのか。
それはこの世界の成り立ちと関係してしまうのだけれど、僕とヴィラローカはまったく違う神に仕えていて、神界の区切りとしても行き来が出来ない。
だからその魂が死んでいる間に意思としての形でも僕の夢の中に何かを告げるために出てくることは無い。
僕自身が作り出したモノとしての、夢では出てくることもあったけれど…無意識の拒否しているのか最近では少なくとも起きた時点で覚えている夢には出てこない。
今回は『黒いヴィラローカ』の影響だろうか。
名前というものの力は大きい。
今回の夢でカティサークと黒いヴィラローカにはやはり何かあるらしいことが大分感じられた。
しかし、何を示しているのかがイマイチ分からないのだ。



その辺りを歩いて帰ってくるとリシュアが来ていた。
カティサークより本を受け取ってなにやら話している。
アレは薬草に関する本かな?
「お帰りなさい、スプライスさん」
「こんにちは、神官様」
にっこり笑いかけてくるリシュアは村のほかの男性に比べて幾分線が細い感じはした。
あと…会うたびに段々感じるようになったのだけど雰囲気が違うんだよね。
「ただいま。こんにちは、リシュア」
すっかり自分の家のように落ち着いてしまった感じもある。
そんな2人の横を通り過ぎて奥へ行くと…
「オカエリ」
「うぉあっ?!」
ヴィラローカが隅に座っていた。
翼がないと本当に小さくまとまれるものだよなぁ…
暗がりで小さくなって本を読むって何があったんだ?
「ただいま…」
その様子が気になって傍によって座る。
「なにやってんの?」
手元の本を見れば大海の神の支配領域における文化的な…僕のこと調べてたのかな?
しかしページを捲る様子が無い。
「ちょっと聞き耳立ててたの」
と小さい声でつぶやくように言うと、手で例の2人のほうを示す。
薬草学の専門的な言葉が混ざっていて分からないけれど、時々笑いも聞き取れる。
「リシュアってばカティのこと気になるらしいのに、カティってばここまでされても気付かないのよ?」
「………」
言われて初めて気付いた。
当初はヴィラローカ狙いかと思ったけど、実はカティサークのほうだったんだ…
先日の夢に出てきたから「もしや」とは思ってたんだけどね。
「驚いたような顔してるわね」
うん、まぁ…
カティサークはリシュアがヴィラローカ狙いだと思っているのではないかと思うけど。
「リシュアもすっぱり告白しちゃえばいいのに!」
小さい声ながらもコブシを固めて憤慨する気持ちを表現する。
たしか獣族ってのは普通の人間よりも平均的に同性愛に対して嫌悪を抱いているのでは?
「それはあるけど、いつまでもうじうじしてないですっぱり玉砕しろってことよ!」
そんな風に出来るなら皆苦労しないよなぁ…
でも、なんだろうか。
ヴィラローカの離婚した過去についてはそれ以外詳細を聞いていないけれど、裏に何か真意があるのだとすればヴィラローカの意見に関して反論が出来ない。
「…もしかして、ほら、カティやさしいから告白してOKくれちゃっても困るんじゃない?」
とりあえずリシュアの肩だけもってみる。
「そうしたら駆け落ちでもすれば…って、無理かぁ…」
なんだかヴィラローカも納得したらしい。
ヴィラローカの両親も種族を超えて恋愛成就してしまったために、生まれ故郷を追われてこの村にたどり着いたというし。
ただ、カティサークの場合は大分異なる。
彼はこの村を離れては通常の生活が送れない。
しかも離れれば離れるほど生体機能が落ちてゆくというし…どれくらい離れられるのかも不明。
カティサークがこの村に縛り付けられている理由も相変わらず不明だ。
?
?
   ***
?
?

”スプライス、もう大体絞れたんじゃない?”
自室でボンヤリしている時にそう声がした気がして辺りを見回すと、
”…ぼけた?”
いかにも僕の様子を笑ってみているような声がはっきりとした。
頭のなかに直接響くような。
「すっかり平和ボケだよ」
誰の声かわかってほっとひとこと。
”ソレは良かった。『平和ボケ』になるくらい心にゆとりが出来たってことだもんね”
そう言われれば、そうか。
「最近忙しいだろ、ブレース?僕と変わる?」
”残念だけどまだ『帰ってきたばかり』でこっちでゆっくりしたいし。それに、スプライスよりはいつも心に余裕はあるつもりなんだけど”
「うそつけ。動いてないと倒れてしまいそうなくせに」
そういえばこうやって会話はするが、もう何年も直接あってはいない。
ブレースの言うとおり僕に余裕が無かったからだろう。
でもブレースも余裕がなくなってきているはずだ。
以前ちょくちょく会った頃は、ブレースが僕のところに訪ねてくるのが常だった。