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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>

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ヴィラローカなどは適齢なのだけれど…ヴィラローカも違うと感じるモノがある。
ハーフだからというのではなくて、つれて行ってはいけない人のような感じがするのだ。
そう、考えながら選別していく自分もいて少しほっとした。
居心地のよさに仕事ができなくなってやしないか多少不安だったのが解消されて。
村を歩いて話をして、深緑の空気を吸って心を落ち着ける。
神殿の中でいつとも知れない未来を思い、甘美な過去の記憶に悲嘆交じりに浸かる日々とは違う充実を感じていた。
?

更に幾日か過ぎて、仕事のほうは微妙にはかどった。
例の「連れて行けない人」を考えて大分篩(ふる)いにかけられたのだ。
本当はそんな決め方してはいけないのも知れないけれど、僕のやり方でいいってことだろうし。
まだ出会ったことが無い人も村の中にいるけれど、この分け方をすれば大分減らせる。

?
そんな或る日、薬草を取りに行くというカティサークについて以前行ったのとは違う川辺まで行った。
ヴィラローカは自分の体が動かずとも監督くらいはできると仕事…学校の武術訓練へ行ってしまった。
カティサークと歩いて行った先には川というよりせせらぎがあって、小さな魚が泳いでいるのを確認することが出来た。
気持ちよさそうに泳いでいる。
久々に僕も羽ならぬ尻尾を伸ばして広い水辺で泳ぎ回りたいものだ。
そんな僕を見てカティサークが苦笑する。
そうやって進んでいくこと暫く。
人の気配がした。
村から大分外れているこんなところで…?
少し行くと直ぐに人影があった。
ソレは見知った人。
「リシュア?」
思わず声をかけてしまう僕。
カティサークは特別声を掛けようとは思わなかったようだ。
リシュアはせせらぎの中でも少し広く深くなっている池のようなところにひざまで入って何事かなそうとしていたらしい。
「あ、カティ…と神官様」
ちょっと気まずそうにする。
悪いことをしてしまっただろうか?
カティサークは軽く手を振って僕に「行こう」と暗に伝える。
ちょっと興味あるのだけれど、聞くのも悪いと思って僕も手を振る。
リシュアも少しこまった顔をしながら手を振ってくれた。
「ええと、今のは・・・?」
少し進んだあたりでカティにたずねる。
リシュアといえばいつもきっちり挨拶してくれた印象があるが、今はそれもなかった。
カティサークが動じていないということは理由を知っているかと感じたのだ。
「おまじないですよ」
と、返答しながら歩みも止めた。
直ぐそこが目的地だったらしい。
良く見なければ他と違いが分からないような木があって、その黄色い実が薬になるらしい。
「おまじない…?」
「いまリシュアさんが行っていたのは恋のおまじないのようですね。好きな人が自分を振り向いてくれるように、というものだったと思います」
リシュアが恋のおまじない…
相手はやっぱりヴィラローカかな?しか考えられない。
「額に、或る葉っぱを絞って作った赤い染料をつかって、自分の羽を一本抜いて恋のおまじない様の文様を描くんです。そして苦手なものを克服する。その姿を好きな人に見られてはいけないものなんですよ」
「自分の羽根ってことは、カティなんかは無理なんだ?」
「翼ないですからね」
あの村に伝わるものか、有翼人の間に伝わるものかは知らないけれどそういったものもあるんだ…
人魚の方でもあるのだろうか、そういったもの。
僕自身は神官として育てられたから人魚の世界のことって殆ど知らない。
「…リシュアの苦手なものってなんだったんだろう?」
そういえば、こんなところで?
いったい何をしようとしていたのかも分からない。
「多分、翼が水に濡れることだと思いますよ。特殊な部族を除いて有翼人は概ね苦手なようですし。水浴び程度はいいらしいですが、水の中に浸かってしまうのは避けたいとか」
あぁ、そうかも。
翼が濡れたら飛べなくなりそうだし。
「ヴィラローカもそうなのかな?」
『翼が濡れること』が嫌なのは。
「姉さんは平気なようです」
なんと。
そういえば普通にお風呂入っているみたいだったしなぁ…。
翼が無くても生活できるから、特別翼が濡れることに抵抗はないのかな?
翼の手入れが好きだということを考えても、他の翼人よりも自らの翼をファッションの一部と捉えているところが多分にあるような気がする。
薬草や木の実をつんで帰路リシュアのいた辺りを通ったがすでにリシュアの姿は無かった。
リシュアのおまじない効くといいけど…おまじないをしなければいけないほどってことは脈が無いってことなのかな?それとも告白一歩手前なのか。
ちょっとがんばってもらいたい気がした。

   ***
?

その日は久々に夢を見た。
否、見た夢をはっきりと覚えていた。
どこか浅瀬の綺麗な海で僕は泳いでいた。
果ての無い海で、半身は人では無い姿で。
泳いでいると、前方に水面上に突き出た岩場があって人が水に足を浸して座っていた。
そよぐ風に吹かれるままに遥か彼方を見つめている。
その世界は水平線しかない世界だったけれど、世界の総てを見つめとおすように。
そんな姿を見ていると、不意にその人物が振り返る。
白い肌に華奢な体格、淡い金髪に空色の瞳。
純白の翼。
「スプライス」
僕の名前を口にして口角を上げて微笑む。
決して大きく無い声で力強くあるわけでもなく静かに。
けれど僕の中はその声が響き渡り、心は満たされる。
「…ヴィラローカ」
そう。
何モノも代えられないほど、世界で一番愛しい人。
けれど、その人は僕が呼ぶと悲しそうに眉をひそめた。
「?」
何故なのか問おうとすると、岩場についていた手を持ち上げて前方を示す。
そこには今ヴィラローカが座るのと同じような岩場があった。
人が立っている。
漆黒の翼を持つ人影。
青と緑の中間色の髪に少し日に焼けた健康そうな肌。
目を瞑ってただ立ち尽くし、少し悲しそうに見える。
ヴィラローカだ。
二人のヴィラローカがいる。
「○○○?」
こちらの『白いヴィラローカ』の本名を呼ぶ。
目が合うと「みていなさい」とばかりに視線で僕を『黒いヴィラローカ』に向ける。
白いヴィラローカに寄り添うようにして僕はもう一方の岩場を見た。
気づけばもう一つ人の姿がある。
ヴィラローカのように翼があるわけでもなく、僕のように魚の半身を持つわけでもない。
茶色い髪の青年。
感情も無く立っている。
カティサークだ。
ヴィラローカの姿が消えて、見知らぬ人間の青年がカティの横に立つ。
何事か必死にカティに話しかけているがカティは反応をしない。
言葉ではダメだと思ったようで勢い良くカティサークを抱き寄せようと…したところで姿が消えた。
入れ替わるように茶色い髪のカティによく似た面立ちの女性が現れた。
並んでいる様子は双子に見える。
やはり何事か話しかけているがこちらは穏やかだ。
最後に肩に手を乗せようとして…消えた。
今度はこうもりの様な羽に羊のような角をしていて僕なんかよりもずっと長くとがった耳をした少女と、同じような角を耳を持つがそれ以外は別段変わって見えない少年の二人組みが現れた。見たことの無い種族だ。
明るい笑顔で二人は見上げるようにカティに話しかける。
そして飛びつこうとして消えた。