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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>

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それでも僕は自分が以前よりも大分立ち直った、と言うより前向きに生きていけるようになったと思ってた。
しかし此処に来てヴィラローカに元気を貰った。
カティサークに穏やかに過ごす日常と言うものを貰った。
村の人々に人の中で生きていくということ思い出させてくれた。
やはり僕の世界の中心は『あの人』で構成されていたのだと再認識した。
自分が、ダメな…だらしない奴だと思った。

それら全て、僕がこれから生きていくうえで必要なことだと思った。

世界にはまだまだ分からないことがあるとも感じた。
分からないことを分からないまま放置しなければならないこともある…そうなってしまうことも。
それらに関して、『考える』ことは自由だとも思った。
過去に感じ、考え、思い至ったことだってあっただろうに忘れていた。
この村に来たこと、この村の人とであったことに意味はあったのだと。
今回この村には『仕事』できていた。
この後も仕事が控えているだろう。
そのまま時間は過ぎ去り此処に再びくることが出来るかはわからない。
だから現在を記憶に留めようとつとめた。
いつか忘れるとしても。
別れは、できるだけさっぱりと明るく済ませるものだと僕は思っている。
湿っぽいのはあの人…白い翼のヴィラローカことバーカンティンの時に経験している。
それ以外の別れは、それに比べれば僕にとって思い出となるだけで傷となることは無いと思っている。
傷…なのかも分からないけれど、心の穴にはならないと。

ヴィラローカやカティサークを前にしてそんなことは言えないけれど、でもこの瞬間はともて寂しいとは思った。
後からどう思うかなんて、その瞬間には関係ない。
ブレースはそんな僕やリシュアを、もしくは見送る村の人を静かに見ている。
世界中旅して歩いているブレースのほうがこういう別れは多く経験しているか。
「ありがとうございました」
村長を初め、村の人に声をかける。
もう「ありがとう」しか言えないよね。
他に言いたいことがあったとしても、結局集約されるべき言葉は「ありがとう」になってしまう。
特に言いたいのはヴィラローカとカティサーク。
でも、彼らはこの村において特別な存在で、それゆえに特別扱いできないことも感じた。
「もう沢山言葉貰ったから他の人に声かけてあげて?」
思わず泣き出す村の女の子なども僕の前に引っ張り出してきて、声をかけさせる。
ヴィラローカは最後まで涙を見せないのだと感じて…それにさえも礼の言葉をいいたいくらいだった。
「悔いの無いようにね!」
村の人に声をかけて、回っている。

「おめでとうリシュア」
「まさかお前が選ばれるとはな」
リシュアと同年代の青年達が取り囲んでいる。
リシュアがすっきりした表情ではなかったことを皆分かっていたようだけど、周囲の激励によってリシュアも自分の決断に踏ん切りをつけたようだった。
言葉と言うものは大きい。
「そろそろ…」
切が無いと思ったのか、ブレースが扉の前に立って僕達をまねく。
丁寧に扉の色が替わる演出つき。
村の人なんかは『刻限が迫ったために色がかわった』と思っただろう。
もちろんそう思わせるのが狙い。この辺りはブレースの操作であることを僕は知っている。
「カティ!」
僕がブレースの隣に立つのと同時に、リシュアはカティサークの元に駆けていた。
カティサークはただ微笑んで
「お勤めがんばってくださいね」
それだけだった。
リシュアは弱ったような表情で何か言おうと必死に心を落ち着けている。
それに対しては、何も言わずに真っ直ぐ見つめ返すだけのカティサーク。
リシュアは胸から下げた首飾りを一度ギュッと握ると、深呼吸を一つ。

「カティ…!」

村の人々の前で、ギュッとカティサークを抱きしめた。
リシュアとしては思いきった行動だったのだろうけど、カティサークとしては予想の範囲内だったのか。
先ほどと同じ微笑を見せて、リシュアの腰に手を回して軽く幾度かたたいた。
有翼人って背に翼があるから腕を回すときは首か腰しか無いんだよね。
とは僕も以前経験済み。
リシュアはそのままカティサークの耳元に何かささやくけれど、カティサークの様子は何も変わらなかった。
そんなカティサークの手がリシュアの翼に伸びる。
「…っつ!」
ぷつっと音が聞こえたかもしれない。
カティサークが体を離すので、しぶしぶリシュアも離れるとカティサークの手にはリシュアの羽が一枚あった。
アレを抜いた音か。
「コレを僕は手元に持っています。だからリシュアさんは自分のすべきことをがんばってください」
周囲の者に一瞬ざわめく者があったから、アレは何か特別な意味がある行動なのだろう。
「あぁ…うん……」
とても残念そうな声。
「リシュアさん、がんばってください」
もう一度言われて、リシュアもうつむき加減だった顔を上げる。
ちょっと歪んではいたけれど、笑おうとしているようだった。
カティサークはそんなリシュアから一歩二歩と離れてゆく。
リシュアは追いかけようとして…辞めた。
追いかけたところで仕方の無いことだ。
「スプライス様」
そんなカティサークが僕に向かって声を上げる。
「?」
目が合うとやはり笑顔だった。
ヴィラローカと同じ笑顔だ。
「スプライス様も、がんばってくださいね」
「!」
言われて何のことかすぐに分かった。
僕がこれからがんばることと言えば……
「行くよ」
僕とリシュアに声をかけて、村の人に礼を言いながらブレースが扉に消える。
僕はリシュアの背を押すように後ろに立ち、扉に入る前に一礼した。
「スプライスがんばるのよ!」
この意味は、ヴィラローカとカティサークにしか分からない。
僕はやさしく笑って送ってくれる姉弟二人に
「ありがとう!」
本当にそれしかなくて、それしか口に出来なくて…扉の中に身を翻した。
?
?
?
扉の中に入るとそこは光のトンネルで、すぐに出口も見えていた。
ただ、ブレースとリシュアが立ち止まって僕の方を見ている。
僕の入ってきたところから外は見えない。
そもそも僕が通過したと同時に扉も消えただろう。

リシュアは真っ直ぐ前を向いている。
その前に。
「スプライス、リシュア。急かしたようで申し訳なかったけど、理由が無いわけじゃないから」
「?」
いつまでもウダウダされていても仕方が無いってことじゃない?
「スプライス、そろそろ邪気が溜まってきているだろ?浄化しなければいけないと思うけど、君の守護者の封印を解ける人物がそろそろ寿命なんだ。結構やばいらしいよ。で、その人の元へ行こうと思うけど船が明日明後日に出発するって。スクーナ様が心配してたよ」
あぁ……そんな問題が。
自分で忘れかけていた。
僕自身は不老長寿を得ているけれど、実は僕の守護者は僕と共に生きるだけの寿命を得ていない。得る方法はあるのだろうけど…それを探す時間も無かった。
ということで、一番手近に有った方法をとった。
『時間』を扱うことの出来る知り合いがいて、彼に僕の守護者の時を止めてもらっている。
必要になったら止めた時の流れ…仮に『封印』と呼んでいる…から開放してもらって起きた守護者に仕事を頼む。