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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>

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「どうぞ」
何、このにこやかなやり取り。
思わず内心突っ込み。
「…おおっ」
さっきのジェスチャー通りの動きでギュッとヴィラローカを抱きしめたブレースが嬉しそうな声を上げる。
「スプライス、スプライス。ヴィラローカはちょっと胸あるけど、懐かしい感じるするよ!」
何それ。
「ブリガンティンとかと同じくらいの体格かなって、思って。ブリガンティンよりもちょっと華奢に感じるから、バーカンティンのほうが近いのかも」
そういうことか。
何か満足したように自分を抱きしめるブレースを見て、ヴィラローカも笑っている。
「いい匂いするね」
ヴィラローカが笑いかけると
「ヴィラローカこそ。女っぽい感じしていいなぁ」
などとブレースも返していた。
ブレース、自分の恋人と抱き心地が似ていると言っているがお前の恋人は男だろう。
という突っ込みを笑って突き刺すが、気にしていないようだ。
まぁ、彼らは華奢だったから。
「スプライスもお願いする?」
「……え?」
満足したのか、一歩退いて僕のほうへヴィラローカを差し出す。
ヴィラローカも乗り気のようで「くる?」と手を出してきた。
一瞬と惑う。
ヴィラローカが、もう一人のヴィラローカ…バーカンティンと同じような体格なのは分かっていた。
生活していて思ったけれど、身長なんかも本当に同じくらいだし、肩幅なども同じくらいだろう。
胸元の肉付きはいいし(胸もそれなりの大きさあるから…僕とは大違いだ)、腕の筋肉のつき具合もこちらのヴィラローカのほうがあるけれど、それは気にならない程度。
きっと抱きしめてしまったら、白い翼を持っていたヴィラローカのことを思い出してたまらなくなってしまうだろうと…思って、できるだけ触れないようにしていた。
しかし。
此処でヴィラローカに触れなかったら、もう生涯触れることも無いかもしれない。
それに、今はヴィラローカを抱きしめても大丈夫なような気がした。
白いヴィラローカのことを考えて、張り裂けそうに感じる、もしくは鬱々としてしまうような気はしない。

前向きに、前向きに。

僕はヴィラローカの誘いに乗って、その体をブレースがしたようにギュッと抱きしめた。
あんなに力強い動きをしていたのに、肩は細い。
存在感はあるのに、腕の中にすっぽり納まってしまうほど小さい。
そして…
「…やっぱりいい匂いするかも」
白いヴィラローカとは違う匂いだ。
でも、いい匂いだと思う。
「スプラスは相変わらずね」
くすくす笑われる。
さすがに一緒に生活してきただけあるか。
「ありがとう、この恩はずっと忘れない」
懐かしい形でヴィラローカを抱きしめて、けれども違う匂いを感じて…なんだか涙が出そうだ。
「私は何もしてないよ。それよりも…」
ヴィラローカが顔を上げて僕を見るのが分かった。
「私達友達よね?ずっと、ずっと」
そう言ってくれた人が過去にも何人かいた。
その人たちのことも思い出されたりして…
「…うん」
結局目の前はにじんでしまって、ヴィラローカとブレースの二人に笑われた。?
「こんな顔見られたら恥ずかしいよ」
リシュアの家への到着を少し遅らせてもらおうとしたけれど、
「どうせまた泣くだろう?」
というブレースの言葉で、泣き跡が消えぬうちにリシュアの家へ到着してしまった。

どうなっているのかと思ったけれど、入り口付近に二人の姿。

準備は出来ていたようだ。

リシュアも荷物が少ない。
確かに持っていくようなものなどそうそう無いか。
持ち物の多くはこの村での生活に必要なものであって、生活の場も変われば必要のなくなるものが多いと思う。
リシュアも、カティサークも落ち着いた様子だった。
これでは何があったのか分からない。
……と思ったけれど、リシュアの右手は硬く握られていた。
カティサークはあくまで平静で穏やかで、いつもどおりだ。
もしかしてカティサークは僕が思っている以上にポーカーフェイスを保てる図太さを持っているんじゃないだろうか?
ヴィラローカはカティサークの様子にとっくに気付いているようだった。
「もう良いかな?」
さっきの三人で歩いていた時とは打って変わり、穏やかな慈悲あふれる『神官』としての表情をつけてリシュアに声をかけるブレース。
まぁ、僕よりもずっと神官らしい人物ではある。
ちゃんと神官として育てられて、神殿で暮らし、現在も神官として働く。
僕の場合は、単なる『神官』というちょっと通常の人間とは違うつくりの肉体を持っている生物にしか過ぎない。
時々ブレースを見ているとそう思うことがある。
「それでいい」とは言われるけれどね。
「…はい、お気遣いありがとうございます」
心残りなんてあって当然だ。
僕もブレースもそう考えるから、いざ連れて行くとなると容赦ないよ。
そういう場面に遭遇しすぎたから。
自身も経験したし。
「じゃ、行こうか」
ブレースが僕たちに背を向けて広場へ歩み始める。
良く道が分かるな…とは愚問だ。
そちらにあきらあかな『扉の気配』を感じる。
僕でさえ感じるのだから、ブレースははっきり分かることだろう。
この後広場に向かえば簡単な別れの儀式、お別れ会みたいなものが準備されていると思う。
しかし盛大には行わない。
翼人は天空の神の『束縛の中の自由』を重視している。
日常と言う『束縛』の中で一時の変化と言う『自由』はうけいれるが、今回はリシュアがいなくなると言う『自由』以上の変化がある。
次の生活への対処適応時間を取るのだ。
…まぁ、地域によって異なったりするから良く分からないところもあるけど、この村では元々大きな祭りも行なわれないと聞いていたし。
?
?
村の広場に行くと人がたくさん集まっていた。
「さっき案内してもらったときにすぐ出発すると伝えたから」
こともなげにブレースがいう。
「リシュアが訳ありなのはスプライスが選んだ時点でわかってた。さっさと連れてった方がいいかな、と」
遅かれ早かれ、といったところか。
というよりも、僕が選ぶのは問題者ばかりってこと?
それでも各家より料理なんかが持ち寄られていたりして、簡単な歓送会のような催しは行なわれた。
僕としてもさっき挨拶できなかった人々と言葉を交わせてほっとした。
僕の心残りはこれで大分解消されたことになる。
リシュアは段々と時間が近づいているのを感じているのだろう。
元々『感じている』程度だったカティサークを見る視線が、はっきりと分かった。
もうそのカティサークに向ける視線は複雑な感情が織り交ざって、一言では言い表せないのだろうけどそれでも一言で現すならば『思ってる』という感じだろうか。
「大丈夫かな?」
ブレースが僕に耳打ちしてくるが
「本人OKしたし、まぁ大丈夫じゃない?」
それくらいしか答えられなかった。
カティサークも気付いているのだろうけど、リシュアと目があっても微笑み返すだけだった。
本当にカティサークは何を考えているのか分からない!
ヴィラローカはやはりそちらに関しては黙っているだけで、僕やブレースに気さくに話しかけたり話しかけてくるもの達をまとめたりと活躍してくれた。


この村に来る前。