SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>
守護者のとしての仕事が終わったら僕の守護者はイ・ヨールという女性は、また時を止められて次の開放を待つのだ。
で。
その時間を止める能力を持つ人物なのだけれど、能力から分かるように特殊な人物だった。
ちなみに住んでいるのは他大陸。この使神官の扉はこの大陸の中でしか使用が出来ない。
彼は生まれては死に、また生まれると言うことを永遠と続けている。
前回あったのは数十年前、あの頃ですでに初老と言ってよい年齢だっただろうから、今は立派な老人だろう。
寿命で危ないということになると、もし死んでしまったら次会えるまでまた大分時間が掛かってしまう。
以前一度酷く邪気を溜めてしまったことがあって、その時は身動きが取れなくなって守護者を呼び寄せることになってしまった。
ヨールには酷くバカにされた記憶がある。
リシュアには何のことか分からなかっただろうが、僕が納得した様子を見て無下に急かされていたのではないと納得したらしい。
まだ寂しそうな雰囲気はわずかに残っているようだけど、ブレースの促しでトンネルを歩き始めた。
出口の向こうは使神官の間。
此処は異次元だ。
果てしなく広がる青空、所々に白い雲。
上にも、下にも。
そんなところを宙に浮いたような回廊が真っ直ぐ…今回は真っ直ぐにしたらしい…続いていて、先にはベールで覆われた広間。
「あそこに使神官タ・ルワール様がいらっしゃるよ」
ブレースがリシュアに声をかけると、
「はい」
と答え、胸元のネックレスの飾り部分をきゅっと握った。
…そういえば。
「それ、前はしてなかったよね」
聞こうと思って忘れてた。
ブレースは別になんとも思ってなかったようだ。
それはそうか。
「……カティから貰ったんです」
あぁ……
まずいこと聞いちゃったカナ、とブレースを見るとにらまれた。
あれ?
ってことは、カティサークもリシュアのこと気にかけていたのかな?
最後までよく分からなかったんだけど。
「『約束の羽』を持っていったコだね?」
ブレースがあまり湿っぽくならないように明るい声で告げる。
『約束の羽?』
「さぁ…どうだか分からないですが。カティは優しいから…」
苦笑するが、トンネルを抜けたことで踏ん切りがついたのだろうか。
湿っぽさは殆ど感じなかった。
「告白は…」
あまり突っ込んじゃ悪いかなぁ…と思いつつも、今聞けなかったら多分次ぎ会うのはいつになるのか分からないし。
「しました。それよりも同時に従者の話を貰ったことも伝えまして…そっち対して『良かったですね』とは言って貰ったんですがそれ以外はうやむやに…」
まぁ、それもカティサークの優しさなのだろう。
何を答えたところで結果は知れている。
「リシュアはいい人を好きになったんだね」
ブレースの感想は僕も同意。
「そうですね……」
…あれ?
何かありそうだけど…
その表情はやっぱり暗くは無いけれど、僕たちに言えないような事もあったのだろうか。
まぁ長いことカティサークを知っていたわけだろうから、本当に色々あるのだろうけれど。
「さぁ、行きましょう」
リシュアは振り切ったようだ。
「リシュア、あれは『約束の羽』だよ。君は真っ直ぐ前だけ向いて生きていけばいい」
ブレースが歩き出すリシュアに声をかける。
だから、『約束の羽』って…
「恋人同士で交換するんだ。翼の付け根部分の羽を」
視線で問う僕にこっそり耳打ちする。
「ブレース様、ありがとうございます」
もう一度首から下がる飾りを握って笑い、三人で歩き出した。
作品名:SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編> 作家名:吉 朋