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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>

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その舌打ちは、カティサークに対してなのかリシュアに対してなのか。
いったい何を期待していたんだか…
いや、僕もか。
「こんな時間になってしまいまして申し訳ありません、朝食作りますね」
ん?そこまでの時間ではないような気もするんだけど。
まぁこれから寝ても仕方ないし、皆起きているし。
「まだいいわよ。それよりもちょっとこっち来なさいな」
いつもカティサークが座っている辺りをぽんぽんっと叩く。
カティサークのほうはいつもと違い一瞬と惑うも、やはり素直にやってきて腰を下ろした。
「スプライスが今日か明日に帰るって。聞いた?」
カティサークが驚かなかった事に関してヴィラローカは驚かなかった。
「えぇ…リシュアさんから伺いました」
この答えは僕もヴィラローカも予想していた。
ヴィラローカとも話したのだけど、きっとカティサークは僕との別れの時間がわかっても、最後まで『普通』に対応するだろうと思うのだ。
多分、さっきの朝食の発言もそうだったのだと思う。
それにしてもリシュアの名前を出す時も変わって見えない。
何も無かったのなら、一体こんな時間まで何やっていたんだろうか。
なんて下世話かな。
しかしカティサークも寝ているようにはみえないな。
「リシュア、何か言ってた?」
ヴィラローカは自分がどの程度何を知っているのかは明かさない。
しかしどうやら姉弟だけあって察したらしい。
僕に視線を投げかけてきたので「粗方知っているよ」と意味を込めてうなづいた。
「スプライス様に『従者』として来ないかと誘われたと言っていました」
「それだけ?」
「あとは……」
アレだけ時間があったのだから…とは言いたいが、人にその話の内容を話すとすると大したことはない事柄なのかも知れない。
「リシュアさんより直接聞いてください」
ま、リシュアは最後の相談相手としてカティサークを選び、愛の告白は行わなかったのかもしれない。
本当にそれだけかもしれない。
ヴィラローカはそんなカティサークの返答に息をついていた。
ちょっとあきれたように。
?
その後も、話は色々あったはずなのに結局は話しをするより共に過ごした時間に感謝することにした。
ヴィラローカも仕事を休んで僕が村を散策するのに付き合ってくれる。
カティサークは…家事を終えたら合流すると言っていた。

そんな感じに色々な人に挨拶をして回っていたら、珍しく飛んでくる人影が。
前述だけど、村の中では木々にさえぎられて自由に飛びまわれないから結局徒歩が中心となっている。
何事かと思っていたら、僕のほうに向かってくる。
ヴィラローカと止まってみている目前に降り立って、
「広場に扉が現れました」
言われてヴィラローカが僕を見上げるのが分かった。


これでこの生活が終わってしまう。


「分かった、もう少し用事を済ませたら広場に行くよ」
教えてくれた人には扉の状態を見てもらうように言って、ヴィラローカとある場所へ向かう。
僕は何も言わなかったけれどヴィラローカは分かっていたようだ。
まっすぐある家へ向かう。
まっすぐ…時々顔を合わせる人とは挨拶をしながら。
もっと大勢の人と挨拶をしたいのに。
そう思いながら目的地の前まで来た時、そこに意外な人を見た。
「カティ」
ヴィラローカが呼びかけると振り向いて微笑んだ。
何かあったのかな?
いつもとちょっと違う反応のような気がした。
「今、広場の扉の話を聞きました」
どうやら触れ回っているようだ。
「リシュアは?」
「今出てくると思いますよ」
僕の目的地…リシュアの家の前で出てくるのを見上げて待つ。
床の高さは他の家と比べて一般的、ヴィラローカの家より二倍程高い。
リシュアも扉の話は聞いたのだろう、僕の顔を見て答えを出すはずだ。
いや、答えは大体分かるのだけどそれに当たってこの村を離れるための整理をどうつけたのかが問題か。
「あれ、ヴィラとスプライス様…」
こちらも思ったよりすっきりした表情で現れた。
全ての決着はついていたか。
「『扉』の話は聞いた?」
僕が声をかけると
「はい」
と答えながら階段を使わずにふわりと僕達の立つ地の上に降り立った。
僕の正面に。
「聞いてもいいかな?」
「はい」
リシュアはキュと胸元から下げるネックレスに触れる。
リシュアがそんなものをつけているところを初めて見た。
けれど、その動作がなんだかとても親近感を感じた。
僕もいざとなると胸から下げるネックレスに触れる癖がある。

「お請けします」

分かっていたはずなのに、はっきり聞いてほっとしたような悲しいような気分になった。
?
?
ヴィラローカ、カティサーク、そしてリシュアをつれて広場へ行くと確かに大きな扉が存在した。
横から見ると厚さ30センチほど。
前後から見ると扉の形状をしている。
高さは僕の身長の1.5倍くらい。
こんな所に出すことが可能ならば僕がくるときも出してほしかった…とは思うものの、カティサークと出会えたのも遠方に扉が出現したおかげだろう…いや…それにしても遠すぎなかっただろうか。
「スプライス様、いよいよですか」
広場をよく見渡せる位置に村長の家は存在する。
そこから僕を見つけたのだろう、老いても力強い羽ばたきで僕のそばまで下りてきた。
村長の家は他の家と比べても少し高い。
実はこの高いところの上り下りが面倒であまり村長の家に行かなかったというのは、僕の心の内の秘密だ。
「えぇ、お世話になりました」
そこで、僕のそばにいる三人に視線を移す。
カティサークとヴィラローカは家主だから分かるだろう。
もう一人ここにいるとすれば…
「リシュアが選ばれたんですね」
周囲に集まっていた人の視線もリシュアに向く。
「引き受けるとの返答も貰いました」
リシュアがうなづく。
回りの声は、ほっとしたようなものも残念なようなものも混ざっていた。
僕自身が散々思ったことだけど、選ばれれば光栄だけど現在の生活を全て捨てなければならないという欠点もある。
どちらが良いと思うかはその人次第。
僕がリシュアを選んだのは、別に現在の生活を捨ててもいい人物だと思ったからではない。かといって、光栄に感じてくれるとも思っていない。
「あ…」
誰かが声を上げた。
顔を上げると扉が開くところだった。
片側から見ると様子に変化は無いが、もう片側からだと扉が開いてゆく。
完全に開くと向こうに白い空間が見えるだけで扉も消えるのはいつもの仕様。
誰の好みのデザインなのだろうか?
ブレースかルワール様か。


「なんて格好してるんだよ」
それが出てきたブレースに対する僕の第一声だった。
いや、単に古風な天空の神官の神官服を着ているだけだったのだが、ブレースがそんな物を着ているのはめったに見ない。
少しデザインを変えていて、ひらひらとした布地が増えている。
もともと天空の神官の服はかっちりした感じで女性らしさが無いことをブレースは文句を言っていた。
肩の辺りも本来なら硬い素材の肩当があるのだが、それを小さめにしてやはり布がたれていた。
「久しぶりだね、スプライス」
僕の言葉は笑って流し、周囲を見渡す。
額には天空の神官の文様。
周囲の人々が息をのむのがわかった。
…僕の時も、こんなだったっけ?