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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年 <後編>

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リシュアがどういった答えを出すのかヴィラローカも気になっているらしい。
「リシュアがどんな答えを出してどんな行動をとっても、カティは変わらないんだよね…」
そっとヴィラローカがつぶやいた言葉は、僕もリシュアもわかってはいたけれどそれでもヴィラローカは確認のように呟かずにおれなかったのだろう。
一応リシュアには時間を与えたけれど、僕が口にしたことでタイムアップの時間が決まった。
ブレースが迎えに来た時、どうなるのか。
?
?
?
朝起きると、朝食の準備が出来ていた。
四人分ある。

リシュアとカティサークがいた。

「ご迷惑をおかけしてしまったようで、申し訳有りませんでした」
今まで翼のせいで体格差は分かりづらかったけど、改めて一緒にいるのを見るとリシュアはカティサークよりは幾分しっかりした体格をしているようでも微々たる差でしかないようだった。身長ははっきり高いけれど僕に比べれば低い。
それでも、翼は力強く映る。
「大丈夫そうでよかったよ」
改めて朝食のメニューを見て、カティサークが作ったのだとわかる。
この家の食事に関する主な分担はカティサークが受け持っているから、「いつもどおりだ」と感じたのだ。
リシュアも寝起きという態ではなかったから、一緒に作ったのだろうか?
そうだとしたらほほえましい光景だ。
…リシュアの決断次第では、それは悲しい光景なのかもしれないけど。
表情からはどう決断したのかうかがい知れなかった。
その後ヴィラローカも起きてきて4人で朝食を済ませて。
リシュアとヴィラローカが去るとまたカティサークと二人になった。
カティサークと二人でこの家にいるのもは極日常の光景。
しかし違うところは一点ある。
僕がこの村に来た理由は既に一段階クリアして、僕的に返答を待つ段階に入ってしまったから。
もうこの村の人を品定めするように見ることもしなくてよくて…それだけ村を徘徊する必要もなくなった。
となると。
僕的に気になるカティサークとヴィラローカのことを考えてみようとおもった。
時間はないから分かる限りで。

そんなヒントになるものがこの家の中にあるのではないかと本棚を改めて眺めてみた。
とりあえず目の前にあるのは、文化、宗教、地理、歴史に関する本が中心。薬学に関する本も少しあるけれどそれらの大部分はカティサークの部屋にあるようだった。先日入ったときに見たから。
宗教の辺りには神話のものもあったりするけれど、物語的な分類でおいているのではなくてやはり文化、宗教で分類してあるのだろう。
此処にない本の殆どは僕が使用している部屋にある。
…どれから手をつけていいのかサッパリわからない。
やはり昔から調べ物は苦手だ。
特に書物を調べることは不可能といっていいほど苦手。
カティサークは一日寝ていた間に出来なかったことをてきぱきとこなしていた。
昨日の空白を全く感じさせない所作だ。
そして、僕が何をしていても口出ししない。
出かける前にヴィラローカが「調子どぉ?」なんて声をかけることもあったけれど(それでもその程度だったけど)、カティサークはこちらから話題を振らない限り触れても来ない。

そういえば、『禁域』で見たのは『世界の歪み』のようだったけどアレは調べるとするとどの項目になるのだろうか。

『世界の歪み』には色々な思い出…というのも変だけれども、ソレにまつわる色々なことがあった。
以前も述べたかもしれないけれど、僕の恋人であったヴィラローカはそれらを処理することに関する役目を持っていた…らしい。
アレがあの人の使命だったのか、本人が進んで行っていたのかはよく分からない。
本人が何も言わなかったから。
ただ、本人は処理する能力を持っていなかった。
強いて言えば他の人にその能力を与えることは出来たようだけれども、どちらかといえばその『歪み』の所在を突き止めて処理できる者をそこに招くようなことをしていた気がする。(気がするのではなくそうだった)
白い翼を持つヴィラローカも神官だったけれど、『勝敗の女神』の神官だったから人の勝敗に関してソレを告げることは出来ても自らを勝敗のある立場におくことは出来なかった。
そう。
僕と暫し別れるときの言葉も「幸運を祈る」ではなくて「勝利を願う」だった。
何を勝利とし、何を敗北とするのかは自ら決める。

「何かお探しですか?」

外に薬草を干してきたカティサークが本棚の前に立つ僕に声をかけてくる。
昨日カティサークに触れたときに見た映像を思い出す。


『待ってろよ』
微笑んでいるあの人。
『いつまでも待っているから!』
僕の言葉にうなづいてくれた。

僕は再び待つことにした。

この先、何年何十年、もしかしたら何百年になるかもしれないけれど。

あの人がいない世界を嘆くのではなくて、あの人が生まれてくる世界を待つのだ。


「カティ、ありがとう」
「…?なにかありましたか?」
何のことか分からなくて良い。
なんかそれだけ言ったらそれで良いような気がした。
?
?
   ***
?
?
「神官様、もうお決まりになったようですか?」
村長の家へ挨拶のために行ったときに言われた。
今までは「この村の者はどうですか?」だったのに。
「昨晩夢に貴方様がお決めになったようだとお告げが有りまして」
…タ・ルワール様か。
正確には守護者のア・ヴァラキ様か僕と同じように従者のタ・ブレースどちらかの力だろう。
そういえば、ブレースが迎えに来るとか言ってたか。
痺れを切らした、というよりも僕の状況も分かっていて区切りが良いと考えたのだろう。
…どうやって僕の状況をそこまで詳細に判断しているのだか。
繋がりがあるというブレースが、とうとう僕のそんな状況まで判断できるほどに能力を上げたのだろうか。
僕としては、名残惜しい限りだけどあとはリシュアの返答次第だ。
村長には既に本人に伝えて返答待ちだと答えた。
誰なのか教えて欲しそうだったけれど、カティサークでは無いとだけ答えて濁しておいた。
リシュアに拒否されても僕のこの村での仕事完了の通達は来るようだと思うとその点も安心した。
「引き続き他を…」
といわれてもやる気がしない。
人を選び出すというのは思った以上に疲れる。特に『選ばれた者』として引き抜くのは大変だ。
今まではタ・ルワール様が直接足を運んで交流し、合ったものを連れて行ったというからこれからもそうして貰おうと思う。もちろん、ト・スクーナ様に関しても。
僕自身は獣従者を得ようとは思わない。
それどころか守護者とも一緒に居ないし。
獣従者に関しては、僕やブレースは自身も『使神官の従者』であるというのもあるけれど共にいる楽しさの他に別れの悲しさもあるし、実は自分のことでいっぱいいっぱいだということもあるだろう。


あと少しでこの村を去る…知らず知らず僕はまた、選定前良く歩いたルートで村を歩き始めていた。
生き生きと日常を送る人たち。
出来る限り壊したくない風景。
しかし僕の仕事はこの風景を壊してしまうこと。


リシュアは、どう答えを出すのだろうか。
?
?
リシュアからの返答が無いまま一日が経った。