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di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア

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《ベラドンナ》の言葉に、ルイフォンは顔色を変える。《蝿(ムスカ)》はその反応に満足したように、大きく頷いた。
「いいですね、その顔。鷹刀イーレオの血族が、疑念と不安にまみれる――たまりませんね」
「お前、鷹刀とどういう関係だ?」
「私は、ただの斑目の食客ですよ」
 そう言って、《蝿(ムスカ)》は嗤笑する。
『食客』――その組織の者ではないが、食い扶持の対価として組織のために働く者。
 そういえば、情報屋のトンツァイが、斑目一族が別の勢力と手を組んだと言っていた。
 そのとき、ルイフォンは、ふと気づいた。
《蝿(ムスカ)》のことは写真で見ている――トンツァイから、メイシアを唆したホンシュアという女の写真を貰った。そのとき隣に写っていた男だ。写真でもサングラスで素顔が隠されていたが、白髪混じりの頭と体格から、おそらく間違いない。
「ホンシュアと同じ組織の者、か……」
 ルイフォンが呟く。
《蝿(ムスカ)》は笑みをたたえながら、ゆっくりと近づいてきた。滑るような足の運びは、まるで幽鬼のように気配がない。
 腰には細身の刀。純粋な力比べであれば、豪剣のタオロンのほうが上だろう。だが、狂気を宿したような不気味な迫力は、次元を超えた危険をはらんでいた。
 ルイフォンの背中を冷たい汗が流れる。
 まだ充分な間合いの位置で立ち止まったかと思ったら、ルイフォンの目の前が一閃した。
「……!?」
 かちり、という《蝿(ムスカ)》の立てた鍔鳴りの音が、ルイフォンを嘲笑う。
 気づいたときにはルイフォンの上着のボタンが放物線を描いていた。三歩ほど先の地面に落ち、円を描くように転がってから動きを止める。
「……!」
 ルイフォンが息を呑んだ。
「どうしました? 鷹刀イーレオの子にしては、手応えがなさすぎますよ?」
《蝿(ムスカ)》がそう揶揄したとき、ルイフォンの背後で、どすん、という音がした。振り向くと、メイシアが尻餅をついていた。がくがくと膝が笑っている。昨日、屋敷の警備の男に、威嚇の一刀を振るわれたことを、彼女の体は覚えているのだ。
「大丈夫か!?」
 駆け寄ろうとしたルイフォンに《蝿(ムスカ)》が嗤う。
「敵を前にして背中を見せるとは、余裕ですね」
「くっ……」
 そう言いながらも、《蝿(ムスカ)》は絶対的な優位にいるためか、ルイフォンの不意を突くような真似はしなかった。むしろ、メイシアの怯えようや、ルイフォンの悔しげな様子が彼の嗜虐心をくすぐったようで、満足気な笑みすら浮かべている。
「すみません。私は大丈夫です」
 恐怖の記憶に震える体を必死に動かし、メイシアはよろめきながらも、なんとか立ち上がった。
 ルイフォンは、そっと左の袖口に右手を入れた。それを目ざとく見ていた《蝿(ムスカ)》が嗤う。
「毒を仕込んだ釘、ですね。ああ、でも残念ですね。私には毒が効かないんですよ」
《蝿(ムスカ)》の足元の砂塵が、ルイフォンに向かって舞う。
 ルイフォンは「メイシア」と、小声で呼びかけた。
「お前は逃げろ」
「ルイフォン……」
 荒事には縁のなかったメイシアにも、はっきりと理解できた。このままではルイフォンは《蝿(ムスカ)》の凶刃に刻まれる、と――。