di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア
「……ともかく、車を呼ぼう。話はそれからだ」
そう言って、ルイフォンは携帯端末を操作する。普段なら決して使わない音声通話――先に送った報告文があるからか、ワンコールでイーレオは出た。
『何があった?』
即座に異常を察知した父に、ルイフォンは手短に状況を報告する。
「――というわけで、迎えを頼……」
その瞬間、ルイフォンは肌が粟立つのを感じた。無意識のうちに、メイシアの手を思い切り引き寄せる。
「えっ……!?」
ルイフォンのただならぬ様子に、メイシアは彼の視線を追う。
脇道の入口に複数の人影――鷹刀一族の門衛と、勝るとも劣らない屈強な男たちが、壁のように立ち塞がっていた。
その中央に、ひときわ堂々たる体躯の若い男がいた。
二十歳を幾つか越した程度に見えるが、おそらくはこの中の誰よりも強い。よく陽に焼けた浅黒い肌に、意思の強そうな目。刈り上げた短髪と額の間にきつく巻かれた赤いバンダナが、彼の気性を表しているかのようであった。
「――斑目タオロン……」
ルイフォンが呟いた。
この男と直接会ったことはない。けれどルイフォンは、斑目一族に関する資料の中で、その顔を見たことがあった。
「俺のことを知ってんのか」
「ああ」
ルイフォンの首肯に、タオロンがゆっくりと前に進み出た。腰に佩(は)いた大振りの刀が重たげに揺れる。
太い眉の下の瞳が真っ直ぐにルイフォンを捕らえ、口元は一文字に結ばれていた。
タオロンは無言で柄を握り、幅広の刀をすらりと抜いた。緩慢な動作から一気に頭上高く振り上げ、鋭い風切り音をうならせながら回転させる。
刀術の型のひとつ――だが、大刀を手遊びでもするかのように片手で弄ぶのは、並大抵ではない。彼がその気になれば、腕くらい軽々と一刀両断だろう。
思わず見惚れてしまいそうな刀技に、ルイフォンは身動きも取れなかった。
一連の動作を終え、低いうなりが唐突に、ぴたりと止まる。
それまでの力強い勢いに流されることなく、筋骨隆々とした腕は微動だにせず――そして、大刀はルイフォンに向けて、一直線に伸ばされていた。
作品名:di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア 作家名:NaN