物好き…
「…嬉しいな! ちゃんと来てくれたんだね」
街灯のお陰で、それなりに明るい夜中の公園。
井戸まで数メートルの辺りに 立ってたお菊さんが、嬉しそうに微笑みます。
抱きつかんばかりの彼女に、近づく葉月さん。
「ほ、本当に…幽霊さん なんですか?」
「化けて出ても…最近は、見てくれる人がいなくて つまらなかったんだよねぇ」
「…解るような、解らないような」
「だから、色々な人に 声を掛けてみてたの!」
「─ 営業みたいな事…してるんですね」
「ちゃんと来てくれたのは…あなたが初めて!!」
葉月さんは、今更ながら、幽霊に勧誘されて 出向いた自分の迂闊さに思い至ります。
そんな彼女に気付く素振りも見せず、お菊さんはテンションを上げました。
「ぼちぼち丑三つ時だから、ちゃんと見てね。」
「…はい?」
「時間になっら、化けて出るから!」
「─ えーとぉ」
「遠慮なんかしないでね? 井戸の近くまで寄って 見てくれていいんだよ?」
言い終えた途端、お菊さんの姿は 忽然と消えました。
「…え、何?」
突然 葉月さんは、真夏にも係わらず 背筋に寒気を感じます。
ゆらゆらと井戸から現れる、着物姿の女性。
「…1枚…2枚…3枚…」
囁く様なのに、何故か耳まで届く声で、手にした皿の枚数を数え始めます。
「…7枚…8枚…9枚…」
数え終わり、無念そうに声を絞り出します。
「1枚足りない…」
目を逸らす事が出来ず、一部始終を見届けた葉月さんは、その正体を理解しました。
「…さ、皿屋敷の……ゆ、幽霊………」