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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 6話から10話まで

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 春奴の『奴』は、辰巳芸者時代の芸名。
あたまの文字の『春』が、湯西川に来てからの屋号にあたる。
したがって、勝手についてきた豆奴にだけ、例外的に「奴」がついている。
のこる5人には、春の文字がついている
2番弟子が小春。千春。美春。佳春とつづいて、最後の6人目が、
お座敷舞の名手と呼ばれている豊春。
清子の舞の師匠に指名されたのが、最後の弟子になるはずだったこの豊春。


 「責任は重大です。
 お母さんの期待にこたえるため、清子を立派に仕込みたいと思います。
 この子の座る姿勢は綺麗です。
 しゃんと背筋が伸びていて、大変によろしいのですが、覚えることに、
 人一倍、遅いものがあります。
 踊る姿に、華というものがありません。
 だいいち、身体も小さいし、細すぎます。
 針金が、着物を着て踊っているような有様です」

 「そう言いなさんな。
 そう言うあなたさんだって、人一倍、物覚えは遅かった。
 そんな風に記憶しております。
 そのことが逆に、あなたを姉妹の中で、一番の舞の名手に成長させました。
 ご飯をたくさん食べさせますので細いのは、そのうち、
 なんとかなるでしょう」


 「なんとかなるって、お母さん。
 適当なことを言わないでください。
 清子ったら、ホントに、物覚えが悪すぎるんですもの。
 わたしにではなく、佳春お姐さんか、美春お姐さんに預けてくださいな。
 わたしだけが清子で苦労するなんて、割に合いません!」

 「短気をおこしなさんな。
 猿だって辛抱強く仕込めば、芸を覚えます。
 それにさ。舞妓を育てるわけじゃありません。
 チャラチャラしたあんな京都の舞は、ただの観光用のデモンストレーション。
 研ぎ澄まされた少ない所作の中で、女の美しさを表現するのが、
 関東芸者のお座敷舞。
 10年かかろうが、20年かかろうが、わたしは一向にかまいません。
 清子を、あんた以上のお座敷舞の名手に育ててくれれば、
 あたしはそれで、文句を言いません」


 「そんなぁ殺生なぁ!。
 あたしだって忙しいんですよ、お母さん。
 物覚えの悪い清子に、いつまでも構ってなんかいられません!」