赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 6話から10話まで
「あらまぁお前。いちいち仕草が優雅で綺麗ですねぇ。
ますます気に入りました。
よかったねぇ。あんたも今日から我が家の一員だ。
ほらおいで。ついでに顔も綺麗に拭いてあげましょう」
春奴が雑巾を近づけた瞬間。子猫がプイと顔をそむける。
「あはは。ごめんねぇ。
足を拭いた雑巾のままじゃ気の毒だね。
あたしの匂いがついているが、これなら雑巾より、いくらかマシだろう」
袂に手を入れた春奴が、ハンカチを取り出す。
驚いたことに子猫が、自分から嬉しそうに春奴のハンカチへ近づいてくる。
「おや、お前。猫のくせに化粧の匂いが好きなのかい。
そうか。お粉(おしろい)の匂いで、わたしの家を嗅ぎ分けたんだね。
賢い子だねぇ、お前は。
早速だけど、名前は定番の『たま』でいいかしら。
お化粧の匂いが好きとは、これからウチにやってくる見習いの清子と
まるっきり好みが同じだねぇ。
縁が有るかもしれないねぇ、お前と私と、これからやって来る清子は」
顔を拭いてもらったたまが、のそりと廊下を歩きはじめる。
『なんでぇ。
名前はありきたりに、普通に『たま』か・・・
おいらに名前をつけるのなら、せめて玉三郎とか菊五郎とか、團十郎とか、
男の子らしい、シャキっとした名前にしてくれ。
おいらはよう。自分で言うのもなんだが、毛並みがよくって男前だ。
そのうえ、三毛猫の男の子なんだぜ。
それなに、たまなんて呼ばれたんじゃ、あまりにも月並み過ぎるぜ。
頼むぜ。三毛猫のオスは、貴重なんだぜ。
こう見えてもおいらは、希少価値のある一匹なんだぜ。
頼むよ、おばさん・・・』
(7)へ、つづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 6話から10話まで 作家名:落合順平