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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 6話から10話まで

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 最後の芸妓を育て上げてから、かれこれ20年の歳月が経つ。
最後の芸妓が独立したあと。屋形での一人暮らしずっとがつづいている。
毎日が、出稽古とお座敷の繰り返し。
ひとりで暮らすことに、すっかり慣れてきた。
しかし。清子を弟子に取ると決めた瞬間から、なぜかぬくもりを
求めている自分がいる。

 (運の悪い猫だねぇ。面倒を見てあげる気になったというのにさぁ・・・・
 なんだい姿も見せず、さっさと消えちまうなんて)


 未練がましく、春奴がもう一度、あるいてきた道を振り返る。
春奴の置屋は、格子作りの2階建て。
全盛の頃、3人の芸妓がここで寝起きしていた。
朝早くから、女たちの笑い声があふれていた。
あれほど賑やかだった2階建てが、今はひっそり静まり返っている。

 (あの子が真剣な目で、わたしを見つめるもんだから、つい、
 『お預かりします』と首を縦にふってしまいました。
 預かるのは自分の娘どころか、孫ほどに年齢の違うお嬢さんだ。
 でもね。おかげさまで20年ぶりに、この家が賑やかさを取り戻します。
 それを思うと、いまから胸がドキドキしますねぇ・・・
 あら、どうしたのさ、お前。
 なんだい、私の家に先回りしていたのかい?)

 格子戸の前に、ちょこんと三毛猫が座っている。
『ウチがわかっていたのかい、お前は』春奴が、目を細めて語りかける。
『ニャア~』と子猫が、春奴の顔を見上げる。
賢いねぇお前は・・・子猫を見下ろしながら、春奴が玄関のカギを開ける。
その間。子猫は足元から一歩も動かない。

 「開いたよ、ほら。寒かっただろう、お入り」

 春奴が、足元の子猫を促す。
小首をかしげたまま、子猫は動こうとしない。
玄関に入った春奴が電気をつける。傍らに置いてある雑巾を手にする。
『賢いねぇお前は。他人様の家に、泥足のまんまあがったら
失礼にあたるもんね。
おいでほら。拭いてあげよう』手招きする。
理解したのか。子猫がゆっくり敷居をまたぐ。