赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 6話から10話まで
「それほど心配にはおよびません。
憑依(ひょうい)をあらわすだけの、ただの座興舞いです。
誰が見ても絶対にバレないから、大丈夫。
清子は舞いが下手だなんて、絶対に、見ている人にはわかりません」
「そうはいきません。お母さんは呑気すぎます。
失敗したら清子の舞の師匠のあたしの面目が、まる潰れになります!」
「よく言うよ。
そう言うあんただって20年前、あたしの顔をまる潰しにしたくせに。
やめなさいと全員から止められのに、勝手に引き受けてくるんだもの。
ハラハラしながら、全員で見守ったものさ。
喜んで踊っていただろう、あんときのあんたも。
清子と同じ巫女舞を」
「あっ・・・あ~、そうでした。そういえばそんな事もありましたねぇ。
あれは清子と同じ、15歳になった時のことです。
そういえばお姉さんたちから、猛烈に反対されました。
みんなの反対を押し切って、たしかにわたしは巫女舞を踊りました。
お母さんだけでしたねぇ。私の巫女舞の味方をしてくれたのは。
言われてみれば、確かにその通りです」
「ほら、ごらん。
いまでこそお前さんは舞の名手ですが、あの頃は本当に酷かった。
一番弟子の豆奴を筆頭に、5人の姉さん芸妓たちがそろって猛反対したんだ。
春奴一門の名折れになるから、巫女役を辞退させろと大騒ぎした。
それでもあんたは、涙ひとつこぼさず、最後まで立派に舞台をつとめた。
綺麗だった。素敵だった。あんたの巫女役は最高だった。
でもねぇ。あのときの舞は、やっぱり下手くそでした。
でもあんたは、あの時の巫女舞のおかげで、何かをつかむことが出来たんだ。
そんな昔の出来事をふと、思い出しました。
踊らせてあげても、いいと思うけどね、あたしは。
あの子にチャンスをあげなさい。
あたしからも、頭を下げて頼みます。ねぇ、豊春」
「はい。分かりました。もう何も申しあげません」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 6話から10話まで 作家名:落合順平